「オタク文化」が生まれなかった経緯IDなし最終更新 2026/02/07 21:421.夢見る名無しさん「芸能界でリベラルの力が強すぎたから=エリートは公文書しか動かせない」https://www.facebook.com/share/1G4KCQ2XrG/2026/01/04 15:46:03106コメント欄へ移動すべて|最新の50件57.夢見る名無しさん第二幕 翌日。同じ時間。同じ場所。 エストラゴンのブーツが、踵を揃えてつま先を開いた格好で、舞台前面中央に置いてある。同じ場所にラッキーの帽子。 木には四、五枚の葉っぱ。 ウラジミール、興奮して登場。立ち止まってじっと木を見、やおら鼻息も荒く舞台中を動き回り始める。ブーツの前で立ち止まり、片方をつまみ上げ、調べ、匂いを嗅ぎ、嫌悪感を露にし、そっと元に戻し、行ったり来たりする。下手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、片手を目の上にかざして遠くを見渡し、行ったり来たりする。上手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、同じことをする。行ったり来たりする。いきなり立ち止まって大声で歌い始める。2026/02/07 19:16:4858.夢見る名無しさんウラジミール 犬が忍び---(初めの音が高すぎたのでやめる。咳払いをしてまた歌い出す) 犬が忍び込んだよキッチンに パンを盗んだってさ そしたらコックが現れて おたまで叩き殺しちゃったとさ そしたら犬が走って来たよみんなで 犬の墓を掘っ--- (中断して考え込み、また歌い出す) そしたら犬が走って来たよみんなで 犬の墓を掘ったってさ そして墓石にこう刻んだよ 犬たちの目につくようにさ 犬が忍び込んだよキッチンに パンを盗んだってさ そしたらコックが現れて おたまで叩き殺しちゃったとさ そしたら犬が走って来たよみんなで 犬の墓を掘っ--- (中断して考え込み、また歌い出す) すると犬が走って来たよみんなで 犬の墓を掘っ--- (中断して考え込み、低い声で) 犬の墓を掘ったってさ……2026/02/07 19:18:2859.夢見る名無しさん ウラジミール、一瞬口を閉じ、動きを止める。やがて鼻息も荒く舞台中を動き回り始める。木の前でいったん立ち止まり、行ったり来たりし、ブーツの前でいったん立ち止まり、行ったり来たりし、下手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、遠くを見つめ、上手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、遠くを見つめる。エストラゴン、裸足でうなだれて下手から登場。ゆっくりと舞台を横切る。ウラジミール、振り向いてエストラゴンを見る。ウラジミール また来たな! (エストラゴン、立ち止まるが頭を上げない。ウラジミール、エストラゴンの元へ行く)おいで、抱き締めてやるから。エストラゴン 触るなよ! ウラジミール、思いとどまる。傷ついて。ウラジミール あっち行けってか? (間)ゴゴ! (間。ウラジミール、エストラゴンをじっくり観察して)殴られたのか? (間)ゴゴ! (エストラゴン、黙ってうなだれたまま)昨夜どこにいた?エストラゴン 触るなよ! 聞くなよ! 話しかけるなよ! 一緒にいてよ!ウラジミール お前のこと、放っといたことなんてあったか?エストラゴン 俺のこと、止めなかったよね。ウラジミール こっち向いて。(エストラゴン、顔を上げない。激しく)ちょっと見てくれないかな! エストラゴン、顔を上げる。二人、長い間見つめ合い、突然抱き合って、互いの背中を叩き合う。抱擁終了。エストラゴン、支えを失って転びそうになる。2026/02/07 19:20:5160.夢見る名無しさんエストラゴン 厄日かよ!ウラジミール 誰に殴られたんだよ? 行ってみな。エストラゴン おかげでまた一日が過ぎた。ウラジミール まだだよ。エストラゴン 俺にとっては、もう終わったんだ、これから何が起こったってさ。(沈黙)お前、歌うたってただろ。ウラジミール そういや、歌ってたな。エストラゴン やられたよ。俺、思ったんだ、あいつは独りぼっちだ、俺が永遠に行っちゃったと思ってる。なのに歌なんか歌ってるって。ウラジミール 気分ってものは思い通りにはいかないもんだ。俺、一日中元気はつらつだったんだよ。(間)夜中に一回も起きなかったからな!エストラゴン (悲しげに)ほらね、俺がいない方がおしっこの出がいいんじゃないか。ウラジミール 淋しかったよ……と同時にハッピーだった。おかしいよな。エストラゴン (ショックを受けて)ハッピーだった?ウラジミール 適切な言葉じゃないかもしれないけど。エストラゴン で、今はどうなの?ウラジミール 今? ……(嬉しそうに)またお前と一緒だ……(淡々と)また二人一緒かよ……(暗く)またここか。エストラゴン ほらね、俺が一緒だと落ち込むんだ。俺だって独りの方が気分いいよ。ウラジミール (いらっとして)じゃあ、なんでいつもぼろぼろになって戻って来るんだよ。エストラゴン さあね。ウラジミール 俺にはちゃーんと分かってる。お前は自分の身を守れないからな。俺が一緒だったら殴らせたりしなかったよ。エストラゴン そんなに甘かないよ。ウラジミール どういうことだよ。エストラゴン 十人いたんだから。ウラジミール 違うよ。俺が言ってるのは、殴られる前の話だ。人から殴られるようなことをお前にさせなかったってことだよ。エストラゴン 何もしてないよ。ウラジミール じゃあなんで殴られたんだよ。エストラゴン 知るか。2026/02/07 19:21:4961.夢見る名無しさんウラジミール あのなあ、ゴゴ、いいか。お前には分からなくても、俺なら分かるってことがあるんだ。お前だって感じてるはずだよ。エストラゴン だって、何もしてないもん。ウラジミール そうかもな。けど、物事には、ちゃんとしたやり方ってものがあるんだよ、やり方ってものが。お前がそのまんま生きていきたいならね。エストラゴン 何もしてないってば。ウラジミール お前だって嬉しいはずだよ、本当は。気付いていないだけで。エストラゴン 嬉しいって、何が?ウラジミール 俺の所に帰ってきたことだよ。エストラゴン よく言うよ。ウラジミール とりあえず言ってみなよ。嘘でもいいから。エストラゴン 何て?ウラジミール 嬉しいなって。エストラゴン 嬉しいな。ウラジミール 俺も。エストラゴン 俺も。ウラジミール 俺達、ハッピー。エストラゴン 俺達、ハッピー。(沈黙)で、どうする? ハッピーになったところで。ウラジミール ゴドーを待つ。(エストラゴン、呻き声を出す。沈黙)昨日から変化したことだってあるんだよ。エストラゴン けど、もし来なかったら?ウラジミール (一瞬うろたえて)その時になったら考えよう。(間)昨日から変化したことがあるって言っただろ。エストラゴン 何もかもじわじわ減っていくんだ。ウラジミール 見ろよ、あの木。エストラゴン 膿の量だって一瞬一瞬で変わっていく。ウラジミール 木だよ、あの木、見てみなって。 エストラゴン、木を見上げる。2026/02/07 19:23:1162.夢見る名無しさんエストラゴン 昨日はなかったっけ。ウラジミール あったよ、勿論。覚えてないのか? もうちょっとで首吊るとこだったんだぞ。お前、吊らなかったけどさ。忘れちまったのか?エストラゴン 夢でも見たんだろ。ウラジミール もう忘れたって、そんなのあり?エストラゴン 俺ならね。すぐ忘れるか、絶対忘れないかどっちかだ。ウラジミール じゃあ、ポゾーとラッキーは? あいつらのことも忘れたのか?エストラゴン ポゾーとラッキーって?ウラジミール こいつ、何でもかんでも忘れちまうよ!エストラゴン そういえばあ、俺の向こう脛を蹴っ飛ばした頭のいかれた奴、いたなぁ。そいつ、なんか馬鹿やってた。ウラジミール それ、ラッキーだよ。エストラゴン 思い出した。でも、それ、いつだっけ?ウラジミール そいつのボスがいただろ? 覚えてないか?エストラゴン 骨、もらった。ウラジミール それがポゾーだ。エストラゴン で、それが全部昨日のことだっていうわけ?ウラジミール その通り。エストラゴン で、今俺達がいるのは?ウラジミール どこだと思う? ここ、見覚えないか?エストラゴン (いきなり激怒して)見覚え! そんなもんあるわけないだろ! 俺のお粗末な人生でさ! 泥の中をはいずり回ってきたっていうのに! よく俺に向かって、風景の話なんか! (周囲を荒々しく見回して)見ろよ、この糞の山! ここから出られたことあったか!ウラジミール まあまあ。エストラゴン 景色って、なんだよ! ウジ虫の話でもしてろよ!ウラジミール だからってお前、これ(身振りで示して)がマコン地方と似てるなんて言うなよ。全然違うからな。エストラゴン マコン地方だと! 誰がマコン地方のことなんか言ったよ!ウラジミール でもお前、マコン地方にいたことあったよな。2026/02/07 19:24:2363.夢見る名無しさんエストラゴン ないよ。マコン地方なんか行ったこともない。反吐みたいな人生をここで送ってきたんだってば! ここで! このカッコン地方でさ!ウラジミール けど、俺たちマコン地方にいたじゃないか、誓ってもいい。一緒に葡萄摘んでただろ、ほら、あの人の家だ(指を鳴らして) ……名前は思い出せないけど、ほら、あそこだ(指を鳴らして)……場所の名前も思い出せないけど。覚えてない?エストラゴン (少し落ち着いて)かもね。俺、なんでも見過ごしちゃうからね。ウラジミール え、あそこじゃなんでもかんでも赤かったのに!エストラゴン (爆発して)俺はなんでも見過ごすんだってば! 沈黙。ウラジミール、深いため息。ウラジミール お前とやってくのは難しいよ、ゴゴ。エストラゴン 別れた方がいいかもね。ウラジミール そればっかりだ。ぼろぼろになって戻って来るくせに。エストラゴン 俺を殺すのが一番だよ。他の奴みたいにさ。ウラジミール 他の奴? (間)他の奴って?エストラゴン 他の何十億人もの奴。ウラジミール (格言ぽく)人は皆小さき十字架を背負うものなり。(ため息をついて)やがてその生を終えるまで。(思いついて)そして忘れられる。エストラゴン じゃ、とりあえず穏やかに話をしようよ。黙ってるなんてできっこないんだからさ。ウラジミール それもそうだな。俺達、話のネタは尽きないからな。エストラゴン おかげでものを考えなくて済むね。ウラジミール 言い訳が立つからな。エストラゴン おかげで聞かなくて済むよね。ウラジミール 理由があるからな。エストラゴン この死んだ奴ら全員の声をさ。ウラジミール こいつら羽音みたいにかさかさ音をたてる。エストラゴン 木の葉っていうか。ウラジミール 砂というか。エストラゴン 木の葉っていうか。 沈黙。2026/02/07 19:25:5464.夢見る名無しさんウラジミール いっぺんに喋るからな。エストラゴン みんな独り言だけど。 沈黙。ウラジミール というか、ささやく。エストラゴン ひそひそ。ウラジミール ざわざわ。エストラゴン ひそひそ。 沈黙。ウラジミール こいつら、なんて?エストラゴン 自分の人生のこと喋ってんだよ。ウラジミール 生きただけじゃ足りないんだな。エストラゴン 喋らずにいられないんだ。ウラジミール 死んだだけじゃ足りないんだな。エストラゴン 足りないんだよ。 沈黙。ウラジミール 羽みたいにかさかさ音をたてる。エストラゴン 木の葉っていうか。ウラジミール 灰というか。エストラゴン 木の葉っていうか。 長い沈黙。2026/02/07 19:27:0965.夢見る名無しさんウラジミール なんか言えよ!エストラゴン えーっと。 長い沈黙。ウラジミール (怒って)なんか言えったら!エストラゴン 今、何してるんだっけ?ウラジミール ゴドーを待ってる。エストラゴン ああもう! 沈黙。ウラジミール 駄目だな!エストラゴン 歌ってよ。ウラジミール 駄目駄目! (思案して)始めからやり直してみる?エストラゴン それ、簡単そうだ。ウラジミール 出だしが難しいけど。エストラゴン 出だしなんか、何だっていいよ。ウラジミール だな。でも、決めなくちゃ。エストラゴン だね。 沈黙。ウラジミール 協力しろよ!エストラゴン えーっと。 沈黙。2026/02/07 19:27:5766.夢見る名無しさんウラジミール ネタ探してると、声が聞こえてくるよな。エストラゴン くる、くる。ウラジミール 聞こえてくると、見つからなくなるよな。エストラゴン なる、なる。ウラジミール そうすると考えなくなるよな。エストラゴン でも考えてるじゃん。ウラジミール いやいや、そんなわけないよ。エストラゴン それだよ、言い合いしてみようよ。ウラジミール 考えてないってば。エストラゴン って考えてるんだろ。ウラジミール 俺達はもう、ずーっと考え続ける心配はないんだってば。エストラゴン だったら俺達、なんで文句言ってるんだよ。ウラジミール 考えることだって最悪ってわけじゃないし。エストラゴン かもね。けど少なくともあれだよ。ウラジミール あれって?エストラゴン それだよ、質問し合えばいいんだ。ウラジミール 少なくともあれだよってどういう意味だよ。エストラゴン この方がずーっとましだってこと。ウラジミール 確かに。エストラゴン ね? 自分達の幸運に感謝したらどうかな?ウラジミール 怖いのはさ、もうとっくに考えちゃったってことだよ。エストラゴン でも、俺達、考えたことなんてあったっけ?ウラジミール この死んだ奴ら全員、どこから来たんだよ?エストラゴン この骸骨達か。ウラジミール な。エストラゴン 確かに。ウラジミール 俺達、ちょっと考えちゃっただろ。エストラゴン 始まった途端にね。ウラジミール 死体安置所だな! 死体安置所!エストラゴン 見なくていいよ。ウラジミール どうしたって目に入るだろ。エストラゴン 確かに。2026/02/07 19:30:0967.夢見る名無しさんウラジミール 流れに任せろ。エストラゴン はい?ウラジミール 流れに任せるんだ。エストラゴン 思い切って素の状態に戻るべきだね。ウラジミール そうしてきたよな、俺達。エストラゴン 確かに。ウラジミール そうだ、やっぱり最悪ってわけじゃないよ。エストラゴン 何が?ウラジミール 考えちゃったってことさ。エストラゴン 当たり前だよ。ウラジミール けど、考えなくてもよかったんだ。エストラゴン ク・ヴレ・ヴ?(フランス語で「しょうがないじゃないですか」の意)ウラジミール は?エストラゴン ク・ヴレ・ヴ?ウラジミール ああ、ク・ヴレ・ヴね! おっしゃる通り。 沈黙。エストラゴン 小手調べとしては、悪くなかったよね。ウラジミール まあな。けど今度はまた別のネタを見つけなきゃ。エストラゴン えーっと。 エストラゴン、帽子を脱いで集中する。ウラジミール えーっと。(帽子を脱いで集中する。長い間)あっ! 二人、帽子をかぶり、リラックス。エストラゴン で?ウラジミール 俺、なんて言ったよ? そこから始めればいいんだ。エストラゴン なんて言ったか? いつ?ウラジミール 一番初めだよ。2026/02/07 19:31:1468.夢見る名無しさんエストラゴン なんの?ウラジミール 今夜……えっと……えーっと……エストラゴン 俺、歴史学者じゃないからね。ウラジミール えっと……抱き合って……ハッピーになって……ハッピー……ハッピーになったところでどうするんだって言って…… 待とうよって……待って……えっと……もうちょっとだ……待とうよって……俺達、ハッピーになって……えっと……あっ! 木だ!エストラゴン 木?ウラジミール 覚えてないのか?エストラゴン 疲れちゃった。ウラジミール ほら。 二人、木を見る。エストラゴン 別に。ウラジミール いやいや、昨夜は枯れ木だったろ。ところが今日は葉っぱがついてる。エストラゴン 葉っぱって?ウラジミール たった一晩でだぞ。エストラゴン 春だねぇ。ウラジミール でも一晩でだぞ!エストラゴン だからぁ、俺達、昨夜はここにいなかったんだってば。また悪夢でも見たんだろ。ウラジミール じゃあ、俺達昨夜どこにいたか、言ってみなよ。エストラゴン 知るか。どっか別の小屋だよ。がらがらの場所なんてそこら中にあるんだから。ウラジミール (自分の考えを確信して)よし。昨夜はここにいなかったとしよう。じゃあ、俺達、昨夜何してた?エストラゴン 何してた?ウラジミール 思い出してみなよ。エストラゴン えっと……お喋りかな。ウラジミール (自分を抑えて)どんな?2026/02/07 19:33:0069.夢見る名無しさんエストラゴン いや……いろいろだよ……これといったことは。(確信を持って)そうだ、思い出した。 昨夜俺達は、特にこれといったこともなく、お喋りをしたよ。半世紀の間ずーっとそうしてきたよ。ウラジミール お前、何が起こったとか、どんな状況だったとか、覚えてないわけ?エストラゴン (うんざりして)虐めないでよ、ジジ。ウラジミール 太陽とか。月とか。覚えてないの?エストラゴン どうせそこにあったんだろ、いつも通り。ウラジミール いつもと違うことには何も気づかなかった?エストラゴン ううっ。ウラジミール じゃあポゾーは? ラッキーは?エストラゴン ポゾーって?ウラジミール 骨だよ。エストラゴン あれ、魚の骨みたいだったな。ウラジミール あの骨、くれたのがポゾーだよ。エストラゴン ふうん。ウラジミール それに蹴られた。エストラゴン そうだよ、誰か俺を蹴りやがった。ウラジミール それ、ラッキーね。エストラゴン 全部昨日だっていうの?ウラジミール 足、見せてみなよ。エストラゴン どっち?ウラジミール 両方だ。ほらズボンめくって。(エストラゴン、片足を差し出して、よろめく。ウラジミール、その足を掴んで、二人、よろめく) ズボンめくれってば。エストラゴン 無理。 ウラジミール、エストラゴンのズボンをめくりあげて足を見て、離す。エストラゴン、倒れそうになる。ウラジミール 逆だよ。(エストラゴン、同じ足を出す)反対の足だってば、豚野郎! (エストラゴン、もう片方の足を出す。勝ち誇ったように) ほら傷! 膿かけてるぞ!エストラゴン それが何か?ウラジミール (足を離して)お前のブーツは?エストラゴン どこかに捨てちゃったみたい。ウラジミール いつ?2026/02/07 19:34:5370.夢見る名無しさんエストラゴン 分かんない。ウラジミール なんで?エストラゴン (爆発して)なんで分かんないか分かんないよ!ウラジミール 違うよ。なんで捨てちゃったのか聞いてるんだよ。エストラゴン (爆発して)痛かったんだよ!ウラジミール (勝ち誇ったように、ブーツを指差して)ほらそこにある! (エストラゴン、ブーツを見る) お前が昨日ブーツを置いていった、まさにその場所だ! エストラゴン、ブーツに近寄り、しげしげと調べる。エストラゴン 俺のじゃないね。ウラジミール (びっくり仰天して)お前のじゃない!エストラゴン 俺のは黒かった。これ、茶色。ウラジミール 黒かったって、確かか?エストラゴン うーん、グレーっていうか。ウラジミール で、これは茶色か? 見せてみな。エストラゴン (ブーツの片方をつまみ上げて)うーん、グリーンっていうか。ウラジミール 見せろよ。(エストラゴン、ブーツを渡す。ウラジミール、それをよく見て、怒って投げ捨てて)何だってこんな---エストラゴン ね、なにもかもひどいもんだ---ウラジミール あ! 分かった。うん、そうだ、分かったよ。エストラゴン なにもかもひどい---ウラジミール 単純な話だよ。誰かが来て、お前のを履いて、自分のを置いてった。エストラゴン なんで?ウラジミール 自分のがきつかったから、お前のを履いてったんだよ。エストラゴン 俺のだってきつかったよ。ウラジミール お前にはな。でもそいつにはよかったんだよ。エストラゴン (理解しようと頑張ってみたが無理で)疲れちゃった。(間)もう行こうよ。ウラジミール だめ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう! (間。絶望して)じゃあどうすんだよ、ねえどうすんだよぉ!2026/02/07 19:36:3471.夢見る名無しさんウラジミール どうしようもないよ。エストラゴン けど、もううんざりだよ、こんなの。ウラジミール カブ、食べる?エストラゴン カブしかないの?ウラジミール カブとダイコン。エストラゴン ニンジンは?ウラジミール ないよ。だいたいお前、ニンジンニンジン言いすぎだよ。エストラゴン じゃあカブでいい。(ウラジミール、ポケットの中を探るが、ダイコンしか見つからない。 やがてカブを引っ張り出し、エストラゴンに渡す。エストラゴン、カブを調べ、匂いを嗅いで)黒くなってる!ウラジミール カブだよ。エストラゴン ピンクのじゃなきゃいやなの、知ってるくせに!ウラジミール じゃあいらないんだな?エストラゴン ピンクじゃなきゃ、やだ!ウラジミール じゃあ返せよ。 エストラゴン、返す。エストラゴン 俺、行くわ。ニンジンを求めて。 エストラゴン、動かない。ウラジミール 本当、どうでもいい話になってきたな。エストラゴン まだまだだよ。 沈黙。ウラジミール 試してみたら?エストラゴン もう全部やってみた。ウラジミール いやいや、ブーツがあるって。エストラゴン それ、何かいいことあるかな?ウラジミール 暇つぶしになるよ。(エストラゴン、ためらう)ほんとほんと、気晴らしになるって。エストラゴン 骨休めね。2026/02/07 19:38:2372.夢見る名無しさんウラジミール 元気回復だ。エストラゴン 骨休めね。ウラジミール やってみな。エストラゴン 手伝ってくれる?ウラジミール 勿論。エストラゴン 俺達、そこそこうまくやってるよね? ねえジジ、俺たち二人でさ。ウラジミール うんうん。さあ左からだ。エストラゴン 俺達、いつもなんか見つけるもんね。ねえジジ、おかげで生きてるって気がするよね。ウラジミール (じりじりしながら)うんうん、俺達は魔術師だな。けど決めたことはやり通そうよ、忘れる前にさ。 (ブーツをつまみ上げて)さ、足出せよ。逆だ、この豚野郎! (エストラゴン、反対の足を上げる)もっと上げて! (二人、絡まり合ってよろめきながら舞台をあちこちする。ウラジミール、ようやくブーツを履かせることに成功して)歩いてみな。 (エストラゴン、歩いてみる)どうよ?エストラゴン ぴったりだよ。ウラジミール (ポケットから紐を取り出しながら)紐、結んでみようか。エストラゴン (激しく)やだやだやだ、紐はやだ、紐だけは!ウラジミール 後悔するぞ。もう片っぽもはいてみよう。(前と同様に)どうよ?エストラゴン (しぶしぶ)こっちもぴったり。ウラジミール 痛くない?エストラゴン 今のところはね。ウラジミール じゃあ、もらっとけよ。エストラゴン 大き過ぎるもん。ウラジミール そのうち靴下が手に入るよ、きっと。エストラゴン うん。ウラジミール じゃあ、もらっとくよな?エストラゴン ブーツのことはもういいよ。ウラジミール うん、だけど---エストラゴン (激しく)もういいってば! (沈黙)まあ、座ろうかな。 エストラゴン、座る場所を探し、土の盛り上がったところに座る。2026/02/07 19:39:5873.夢見る名無しさんウラジミール 昨夜もそこに座ってたな。エストラゴン 眠れたらいいのに。ウラジミール 昨夜は眠ったぞ。エストラゴン やってみる。 エストラゴン、顔を両膝に埋めて、また胎児の姿勢をとる。ウラジミール ちょっと待った。(エストラゴンの元に行き、隣に座って、大声で歌い始める)ねんねんねんねんねんねんよ~エストラゴン (怒って顔を上げて)うるさいよ!ウラジミール (優しく)ねんねんねんねんねんねんよ~ ねんねんねんねんねんねんよ~ (エストラゴン、眠る。ウラジミール、そっと立ち上がってコートを脱ぎ、エストラゴンの肩にかけてやる。 それから腕を振りながら行ったり来たり歩き始める。体を温めるためだ。エストラゴン、びくっとして目を覚まし、飛び上がり、 狂ったように辺りを見回す。ウラジミール、エストラゴンの元に駆け寄り、体に腕を回して) よしよし……よしよし……ジジがついてる……もう怖くないよ……。エストラゴン ああ!ウラジミール よしよし……よしよし……もう大丈夫だ。エストラゴン 俺、落ちて---ウラジミール もう大丈夫だ。終わったんだよ。エストラゴン てっぺんからさ---ウラジミール やめろよ! さ、ちょっと歩こう。 ウラジミール、エストラゴンの腕をとり、行ったり来たり歩かせる。エストラゴン、やがて歩くのを嫌がり始める。エストラゴン もういいよ。疲れちゃった。ウラジミール 何もしないで、突っ立ってる方がいいの?エストラゴン うん。ウラジミール 好きにしなよ。 ウラジミール、エストラゴンの腕を離し、コートを拾って着る。エストラゴン 行こうよ。2026/02/07 19:41:5974.夢見る名無しさんウラジミール 駄目だよ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう! (ウラジミール、行ったり来たり歩く)じっとしてられないの?ウラジミール 寒いんだよ。エストラゴン 来るの、早すぎたね。ウラジミール いつも日暮れ時だよ。エストラゴン ちっとも日が暮れそうにないよ。ウラジミール いきなり暮れるんだよ。昨日もそうだった。エストラゴン そして夜が来る。ウラジミール そうすれば立ち去れる。エストラゴン そしてまた日が昇る。(間。絶望して)どうすんだよ、どうすんだよ!ウラジミール (足を止めて、激しく)ぐずぐず言うなよ! お前の泣き言にはうんざりだ!エストラゴン 俺、行くわ。ウラジミール (ラッキーの帽子が目に入って)おっと!エストラゴン さらば。ウラジミール ラッキーの帽子だよ。(帽子に近寄って)もう一時間もいたのに全然気がつかなかったな。(大喜びで)やった!エストラゴン 俺にはもう二度と会えないんだからな。ウラジミール やっぱりこの場所でよかったんだ。もう大丈夫。(帽子を拾い上げ、じっと見つめ、形を整えて)もとは立派な帽子だったんだろうな。 (帽子を脱いでそれをかぶり、自分のはエストラゴンに渡して)ほら。エストラゴン え?ウラジミール 持ってろよ。2026/02/07 19:43:1575.夢見る名無しさん エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取る。ウラジミール、かぶっているラッキーの帽子を頭に合わせる。エストラゴン、自分の帽子を脱いでウラジミールの帽子をかぶり、自分のをウラジミールに渡す。ウラジミール、エストラゴンの帽子を受け取る。エストラゴン、ウラジミールの帽子を頭に合わせる。ウラジミール、ラッキーの帽子を脱いでエストラゴンの帽子をかぶり、ラッキーの帽子をエストラゴンに渡す。エストラゴン、ラッキーの帽子を受け取る。ウラジミール、エストラゴンの帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ウラジミールの帽子を脱いでラッキーの帽子をかぶり、ウラジミールの帽子をウラジミールに渡す。ウラジミール、自分の帽子を受け取る。エストラゴン、ラッキーの帽子を頭に合わせる。ウラジミール、エストラゴンの帽子を脱いで自分の帽子をかぶり、エストラゴンの帽子をエストラゴンに渡す。エストラゴン、自分の帽子を受け取る。ウラジミール、自分の帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ラッキーの帽子を脱いで自分の帽子をかぶり、ラッキーの帽子をウラジミールに渡す。ウラジミール、ラッキーの帽子を受け取る。エストラゴン、自分の帽子を頭に合わせる。ウラジミール、自分の帽子を脱いでラッキーの帽子をかぶり、自分の帽子をエストラゴンに渡す。エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取る。ウラジミール、ラッキーの帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ウラジミールの帽子をウラジミールに返す。ウラジミール、自分の帽子を受け取り、エストラゴンに返す。エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取り、ウラジミールに返す。ウラジミール、自分の帽子を受け取り、投げ捨てる。2026/02/07 19:45:2676.夢見る名無しさんウラジミール 俺にぴったり?エストラゴン 分かるわけないだろ。ウラジミール じゃなくて、似合うかって聞いてんだよ。 ウラジミール、くねくねとしなを作って頭を左右に振り、マネキンのように気取って見せる。エストラゴン 最悪。ウラジミール まあな、けどいつものよりましだろ。エストラゴン どっちもどっち。ウラジミール じゃあ、こっちにする。あの帽子には、飽き飽きしてたんだ。(間)なんていうか。(間)あの帽子のほうが、俺に飽き飽きしてたっていうか。 ウラジミール、ラッキーの帽子を脱いで、中を見回し、振って、山を叩き、またかぶる。エストラゴン 俺、行くわ。 沈黙。ウラジミール 遊ばないの?エストラゴン 何して?ウラジミール ポゾーとラッキーごっこ。エストラゴン 聞いたことないよ。ウラジミール 俺、ラッキー。お前、ポゾーね。(ラッキーの真似をして、荷物の重みで体を折り曲げる格好。エストラゴン、呆気にとられてそれを見る) どうぞ。エストラゴン どうすればいいの?ウラジミール 酷いこと言って!エストラゴン (考えて)スケベ!ウラジミール もっと!エストラゴン 淋病持ち! このスピロヘータ野郎! ウラジミール、体を二つに折って、前後に揺さぶる。2026/02/07 19:46:5977.夢見る名無しさんウラジミール 考えろって言って。エストラゴン へ?ウラジミール 言えよ、考えろ、豚! って。エストラゴン 考えろ、豚! 沈黙。ウラジミール 無理。エストラゴン もういいよ。ウラジミール 踊れって言えよ。エストラゴン 俺、行くわ。ウラジミール 踊れ、豚野郎! (身をよじる。エストラゴン、上手から急いで退場)無理。(顔を上げ、エストラゴンがいないことに気付いて)ゴゴ! (舞台を激しく動き回る。エストラゴン、上手から登場。息を切らしている。ウラジミールのもとに走って来て、 ウラジミールの腕の中に崩れ落ちる)やっと帰ってきたね!エストラゴン 俺、呪われてるよ!ウラジミール お前、どこ行ってたんだよ! もう帰って来ないのかと思った。エストラゴン 奴らが来る!ウラジミール 誰だよ?エストラゴン 分かんない。ウラジミール 何人だ?エストラゴン 分かんない。2026/02/07 19:48:2778.夢見る名無しさんウラジミール (勝ち誇ったように)ゴドーだ! やっと来た! ゴゴ、ゴドーだよ! 俺達、救われたんだ! 迎えに行こう! (エストラゴンを舞台袖に引っ張っていこうとする。エストラゴン、抵抗し、振りほどき、下手から退場)ゴゴ! 戻って来い! (上手端まで走っていき、地平線のほうを見渡す。エストラゴン、下手から登場。ウラジミールのもとに走って来て、 ウラジミールの腕の中に崩れ落ちる)またまた帰ってきたね!エストラゴン 俺、地獄に堕ちる!ウラジミール お前、どこへ行ってたんだよ?エストラゴン こっちも来るよ!ウラジミール 我々は包囲されている! (エストラゴン、舞台奥に逃げ込む)あほか! そっちに出口ないぞ! (エストラゴンの腕をつかんで舞台前面に引きずり出す。観客席を身振りで示して)こっちだ! 誰もいないぞ! さあ行け! 早く! (エストラゴンを観客席の方に押しやる。エストラゴン、恐怖に駆られて後ずさりする)いやなのか? (観客席を一瞥して) 気持ちは分かる。さてと。(考えて)残る選択肢は姿を消すことだな。エストラゴン どこに!ウラジミール 木の後ろだ。(エストラゴン、ためらう)早く! 木の後ろだよ! (エストラゴン、木の後ろに行ってしゃがむが、 体が隠れてないことに気付き、木の後ろから出て来る)全くこの木ときたら、何の役にも立たないよ。エストラゴン (少し落ち着いて)焦ったぁ。ごめんね。もう大丈夫。さてどうすればいい?ウラジミール 何もないよ。エストラゴン あっち行って立ちなよ。(ウラジミールを下手端に引っ張って行き、舞台に背を向けて立たせて)いい、じっとして見張っててよ。 (ウラジミール、目の上に手をかざして地平線を見渡す。エストラゴン、上手端に走って行って、同じ姿勢。二人とも振り返って互いを見て) 背中合わせだ。昔懐かしあの頃みたいだ! (二人は束の間、互いを見続け、やがて見張りに戻る)何か来てる?ウラジミール (振り向いて)え?エストラゴン (もっと大きな声で)何か来るの見える?ウラジミール いんや。2026/02/07 19:51:2579.夢見る名無しさんエストラゴン 俺も。 二人、見張りを続ける。沈黙。ウラジミール お前、幻でも見たんだな。エストラゴン (振り向いて)え?ウラジミール (もっと大きな声で)お前、幻でも見たんだろ!エストラゴン 叫ばなくてもいいだろ! 二人、見張りを続ける。沈黙。ウラジミール (同時に振り向いて)あのさ---エストラゴンウラジミール おっと失礼!エストラゴン どうぞ続けて。ウラジミール いえいえ、お先にどうぞ。エストラゴン いえいえ、そちらから。ウラジミール 割り込んだのはこっちですから。エストラゴン いえいえ、こちらですから。 二人、怒って互いを睨みつける。2026/02/07 19:52:4280.夢見る名無しさんウラジミール 堅苦しい猿め!エストラゴン 几帳面な豚野郎!ウラジミール 最後まで言えばいいだろ!エストラゴン お前こそ! 沈黙。互いに近付き、立ち止まる。ウラジミール まぬけ!エストラゴン それだよ、お互いに罵倒し合おう。 二人、いったん離れてからまた向かい合って。ウラジミール まぬけ!エストラゴン 人間の屑!ウラジミール 発育不全!エストラゴン 寄生虫!ウラジミール ドブネズミ!エストラゴン 糞坊主!ウラジミール 白痴!エストラゴン (決定的に)劇評家!ウラジミール ぐあ! ウラジミール、へなへなとなって、打ちひしがれ、顔を背ける。2026/02/07 19:53:3881.夢見る名無しさんエストラゴン よし、仲直りだ。ウラジミール ゴゴ!エストラゴン ジジ!ウラジミール さあ、君の手を!エストラゴン 僕の手を!ウラジミール さあ、僕の腕の中においで!エストラゴン 君の腕?ウラジミール 僕の胸に!エストラゴン よおし! 二人、抱き合う。二人、離れる。沈黙。ウラジミール あっと言う間に時が経つなぁ、ふざけてるとさ! 沈黙。エストラゴン 今度は何する?ウラジミール 待ちながらなぁ。エストラゴン 待ちながらねぇ。 沈黙。ウラジミール 体操でもするか。エストラゴン 体動かすか。ウラジミール 跳躍運動して。エストラゴン 脱力する。ウラジミール 屈伸運動して。エストラゴン 脱力する。ウラジミール ウォームアップだ。エストラゴン クールダウンだ。ウラジミール さあやってみよう。2026/02/07 19:54:4282.夢見る名無しさんウラジミール、片足ずつ跳ぶ。エストラゴン、真似する。エストラゴン (やめて)もういいよ。疲れた。ウラジミール (やめて)調子が出ないな。ちょっと深呼吸でもしてみるか?エストラゴン 息するのもうんざりだよ。ウラジミール それもそうだ。(間)じゃ、木になってみようよ、バランス感覚だ。エストラゴン 木って? ウラジミール、木になる。片足立ちでよろめく。ウラジミール (やめて)お前の番。エストラゴン、木になる。よろめく。エストラゴン 神様は俺のことを見てると思う?ウラジミール 目を閉じなきゃ駄目だよ。 エストラゴン、目を閉じる。もっとよろめく。エストラゴン (やめて、両手の拳を振り回しながら、声を限りに)神様、どうか私にお慈悲を!ウラジミール (腹を立てて)俺にもだろ?エストラゴン 私に! 私にです! お慈悲を! どうか私に! ポゾーとラッキー、登場。ポゾーは目が見えない。ラッキーは前と同様に荷物を持っている。前と同様にロープで繋がれているもののロープはずっと短くなっている。そのおかげで、ポゾーはラッキーの後についていきやすくなっている。ラッキーは前と違う帽子をかぶっている。ラッキー、ウラジミールとエストラゴンを見て立ち止まる。ポゾー、そのまま進み、ラッキーにぶつかる。ウラジミール ゴゴ!ポゾー (ラッキーにつかまる。ラッキー、よろめく)どうした? 誰だ? ラッキー、なにもかも投げ出し、ポゾーを巻き添えにして転ぶ。二人は散らばった荷物の間になすすべもなく倒れる。2026/02/07 19:56:2383.夢見る名無しさんエストラゴン ゴドーか?ウラジミール やっと来た! (荷物の山の方に向かう)ついに援軍到来だ!ポゾー 助けてー!エストラゴン ゴドーなの?ウラジミール 俺達、弱気になってたけど、これで今夜も切り抜けられるぞ。ポゾー 助けてー!エストラゴン 聞こえないの?ウラジミール 俺達、もう二人っきりで夜が来るのを待ったり、ゴドーを待ったり、あと……えーっと、とにかく待ったりしなくてもいいんだよ。 夕方ずっと俺達、誰の助けもなく、頑張ってきたよな。けどそれも終わりだ。明日が来たも同然だよ。ポゾー 助けてー!ウラジミール また時が流れ始めたぞ。日は沈み、月は昇り、俺達は……ここをあとにするんだ。ポゾー お慈悲を!ウラジミール ポゾーだ、ポゾーだよ!エストラゴン この人だと思ったよ。ウラジミール 誰って?エストラゴン ゴドーだろ。ウラジミール ゴドーじゃないよ。エストラゴン ゴドーじゃないの?ウラジミール ゴドーじゃないよ。エストラゴン じゃあ誰?ウラジミール ポゾーだよ。ポゾー ここだ! ここ! 起こしてくれよ!ウラジミール 起き上がれないんだな。エストラゴン 行こうよ。ウラジミール 駄目だよ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう!ウラジミール こいつまた、骨をくれるかもしれないぞ。2026/02/07 19:58:0684.夢見る名無しさんエストラゴン 骨って?ウラジミール 鶏の骨だよ。覚えてないのか?エストラゴン こいつだっけ?ウラジミール そうだよ。エストラゴン 聞いてよ。ウラジミール 先に手伝ってやったほうがいいよ、きっと。エストラゴン なにを?ウラジミール 起き上がるの。エストラゴン こいつ、起き上がれないの?ウラジミール 起き上がりたいのに。エストラゴン じゃあ勝手に起きればいいじゃん。ウラジミール できないんだよ。エストラゴン なんで?ウラジミール さあね。 ポゾー、身もだえし、唸り、両手の拳で地面を叩く。エストラゴン 先に骨をくれるか聞いたほうがいいよ。断られたら放っておけばいい。ウラジミール つまりこいつの命運は俺達が握ってるってことか。エストラゴン そういうこと。ウラジミール てことは、俺達が善行を施すかどうかは条件次第ってことだな。エストラゴン へ?ウラジミール 頭いいな。けど、一つ心配なことが。ポゾー 助けてー!エストラゴン なんだよ?2026/02/07 19:58:5885.夢見る名無しさんウラジミール ラッキーがいきなり動き出すかも。そうしたら俺達、どうしようもない。エストラゴン ラッキーって?ウラジミール 昨日お前を襲った奴だよ。エストラゴン だって十人いたんだよ。ウラジミール そうじゃなくて、その前。蹴った奴。エストラゴン そいつがいるの?ウラジミール まさにご本人だよ。(ラッキーを身振りで示して)今のところは大人しいけど、いつ暴れ狂うか分からない。ポゾー 助けてー!エストラゴン ボコボコにしてやったら? 二人で。ウラジミール 寝込みを襲うってことか?エストラゴン うん。ウラジミール いい考えだ。でもできるかな? 本当に寝てるのか、あいつ? (間)いや、一番いいのは、ポゾーを利用することだよ。 あいつが助けを呼んだら---ポゾー 助けてー!ウラジミール 助けるんだ。エストラゴン こいつを? 俺達が?ウラジミール 確実にお礼が返ってくるという予測のもとにだ。エストラゴン でも、あいつがもし---2026/02/07 19:59:5686.夢見る名無しさんウラジミール くだらないお喋りは時間の無駄! (間。熱烈に)行動あるのみだ。チャンスなんだから! 誰かに必要とされるなんて、毎日あることじゃないよ。 本当はさ、別に俺達じゃなくたっていいんだ。他の奴等だってよかったんだ。そいつらの方がいいかどうかは別として。 俺達の耳の中でずっとこだましてるあの救いを求める叫び、あれは人類すべてに対して発信されたものだ。 だがしかしだよ、今この瞬間、この場所で、人類とは俺達のことなんだ。好むと好まざるにかかわらず。それを利用しない手はないだろ。 手遅れにならないうちにな! 一度は糞みたいな人類を立派に代表してみたっていいじゃないか。 過酷な運命が俺達にやれって言ってるんだから! どうよ? (エストラゴン、何も言わない) まあ確かに、腕組みをして賛成と反対の重さを量ってるのは、俺達がまさに人類である証拠だよな。 トラなら何の迷いもなく同類の救助に駆けつけるもんな。或いは茂みの奥深くへとそっと隠れるかもしれない。 けどそんな事はどうだっていい。俺達がどうするのか、それこそが問題なんだよ。そしてありがたいことに、俺達はたまたま答えを知ってるってわけだ。 そうだよ、この大混乱の中で、一つだけ明らかなことがある。俺達は、ゴドーを待ってるんだ---2026/02/07 20:02:4087.夢見る名無しさんエストラゴン ああもう!ポゾー 助けてー!ウラジミール 或いは、夜の帳が降りるのを。(間)俺達は約束を守ってきたし、それこそが大事なんだ。俺達は聖人でも何でもない。 それでも約束は守る。俺達ぐらい誇れる人間が一体どれだけいるだろう。エストラゴン くさるほど。ウラジミール あ、そう?エストラゴン 分かんない。ウラジミール そうかもね。ポゾー 助けてー!ウラジミール 分かってるのは、こんな状況じゃ、時間が立つのが遅いってことだ。俺達はな、あの手この手で何とかやり過ごしてるんだよ--- なんていうか---始めは意味ありげに見えるけど、そのうちただの習慣になっちまうようなことでさ。 そうやって理性が崩壊するのを食い止めてるともいえる。まあそれはそうだ。けど、理性なんてとっくの昔から、 深い深い海の底みたいな終わりなき夜を彷徨ってるんじゃないのか? 俺、時々そんな風に思うんだ。俺の説、分かってんの?エストラゴン (ここだけ格言的に)我々は皆狂人として生を受け、そのまま生きる者もいる。ポゾー 助けてー! お金払うから。エストラゴン いくら?ポゾー 百。エストラゴン 安っ。ウラジミール いやそこまでは。エストラゴン 百でいいの?ウラジミール いやそうじゃなくて。この世に生を受けた時から頭がおかしいなんて言い過ぎだよ。まあそこは問題じゃないけどさ。ポゾー 二百にする!2026/02/07 20:05:2288.夢見る名無しさんウラジミール 俺達は待ってる。退屈してる。(片手を挙げて)いや、反論するな。俺達、死ぬほど退屈してる。 それは確かだ。だよな? そこへ気晴らしがやって来る。さて、どうするよ? 俺達、せっかくの気晴らしを無駄にしてるんだ。 さあ、お仕事だ! (荷物の山に近付き、平然と立ち止まって)あっと言う間に何もかも消えちまったら、 また二人っきりで裸舞台の真ん中に取り残されるんだ。(思いを馳せる)ポゾー 二百だってば!ウラジミール 今行くよ。 ウラジミール、ポゾーを立たせようとするが、失敗。もう一度やってみるが、よろめいて転倒する。起き上がろうとするが、できない。エストラゴン どうしたの?ウラジミール 助けてー!エストラゴン 俺、行くわ。ウラジミール 見捨てるなよ! 殺されるーっ!ポゾー ここはどこだ?ウラジミール ゴゴ!ポゾー 助けてー!エストラゴン 行くってば。ウラジミール まず俺を助けろよ。で、一緒に行けばいいよ。エストラゴン 約束する?ウラジミール 誓うよ。エストラゴン もう二度と戻ってこない?ウラジミール 来ないよ!エストラゴン ピレネー山脈に行こう。ウラジミール お前の行きたい所ならどこだって。エストラゴン 俺、ピレネー山脈を放浪したいっていつも思ってたんだ。ウラジミール 放浪してくれよ。エストラゴン (後ずさりして)おならしたの誰?ウラジミール ポゾーだよ。ポゾー ここだ! ここだよ! お慈悲を!エストラゴン くさっ!2026/02/07 20:06:4789.夢見る名無しさんウラジミール 早く! 手を貸せったら!エストラゴン 俺、行くわ。(間。もっと大声で)行くからね!ウラジミール まあ、結局は自力で起き上がればいいってことだよ。(やってみるが、失敗する)時が来ればね。エストラゴン どうしたの?ウラジミール 地獄に堕ちろ。エストラゴン そこにいるつもり?ウラジミール 当分は。エストラゴン ほら、起きなよ。風邪ひくよ。ウラジミール 俺のことはいいんだ。エストラゴン ねえ、ジジ、意地はらないでよ。 エストラゴン、ウラジミールに手を差し出す。ウラジミール、急いで掴もうとする。ウラジミール 引っ張って! エストラゴン、引っ張る。よろめいて、転倒する。長い沈黙。ポゾー 助けに来てー!ウラジミール 来てますよー。ポゾー お前、誰だ?ウラジミール 人類です。沈黙。エストラゴン 優しき母なる大地よ!ウラジミール お前、起き上がれる?エストラゴン さあ。ウラジミール やってごらん。エストラゴン あとにしてよ、あとに。 沈黙。2026/02/07 20:08:2190.夢見る名無しさんポゾー どうなってんだ?ウラジミール (激しく)いい加減にしてくれよ、この疫病神! こいつ、自分のことしか考えてないな!エストラゴン ちょっとうとうとしてみようか。ウラジミール お前、聞いたか? こいつ、どうなったのか知りたいんだってさ!エストラゴン 放っとけばいいよ。眠ろう。 沈黙。ポゾー お慈悲を! お慈悲を!エストラゴン (びくっとして)何?ウラジミール 眠ってたのか?エストラゴン そうみたい。ウラジミール またポゾーの野郎だよ。エストラゴン こいつ、黙らせてよ。股間を蹴っちゃいなよ。ウラジミール (ポゾーを殴りつけて)いい加減にしろよ、この毛じらみ野郎! (ポゾー、痛みで泣き叫びながらウラジミールから逃れ、這って逃げる。 ポゾー、止まり、助けを呼びながら、見えない目で宙を見る。ウラジミール、肘をついてポゾーが逃げる様子を見て)逃げたぞ! (ポゾー、崩れ落ちる)ダウンした!エストラゴン これからどうする?ウラジミール 奴のところまで這っていけるかも。エストラゴン 置いていかないでよ!ウラジミール 呼んでみてもいいけど。エストラゴン それがいいよ。ウラジミール ポゾー! (沈黙)ポゾー! (沈黙)無視かよ。エストラゴン 声を合わせて。ウラジミール (同時に)ポゾー! ポゾー!エストラゴン2026/02/07 20:09:5891.夢見る名無しさんウラジミール 動いたぞ。エストラゴン あいつ、本当にポゾーっていうの?ウラジミール (不安になって)ポゾーさん! 戻って来て下さいよ! 痛いことしませんから!エストラゴン 別の名前で呼んでみたら?ウラジミール あいつ、くたばっちまったらどうしよう。エストラゴン 面白いじゃん。ウラジミール 何がだよ。エストラゴン 別の名前を試そうよ。色々さ。暇つぶしになるよ。そのうち当たるって。ウラジミール だからぁ、やつの名前はポゾーだよ。エストラゴン すぐ分かるよ。(考えて)アベル! アベル!ポゾー 助けてー!エストラゴン 一回で当たった!ウラジミール そろそろ飽きてきたな、このモチーフ。エストラゴン 片割れはきっとカインだ! カイン! カイン!ポゾー 助けてー!エストラゴン あいつ、一人で全人類かよ。(沈黙)見てよ、あのちっぽけな雲。ウラジミール (目を上げて)どこ?エストラゴン ほら。てっぺんのほう。ウラジミール で? あの雲のどこがいいんだよ? 沈黙。2026/02/07 20:11:0692.夢見る名無しさんエストラゴン そろそろなんか別のことをしようか。ウラジミール ちょうどそう言おうと思ってたんだ。エストラゴン けど、なんかあるかなぁ?ウラジミール う~ん。 沈黙。エストラゴン とりあえず起き上がってみる?ウラジミール やってみて損はない。 二人、立ち上がる。エストラゴン 楽勝だな。ウラジミール やる気の問題だよ。エストラゴン で、どうするの?ポゾー 助けてー!エストラゴン 行こうよ。ウラジミール 駄目だ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう! (絶望的に)どうすんだよ、どうすんだよ!ポゾー 助けてー!ウラジミール 助けてみる?エストラゴン あいつ、どうしたいの?ウラジミール 起き上がりたいんだよ。エストラゴン じゃあなんで起きないの?ウラジミール 俺達に手伝ってほしいんだよ。エストラゴン じゃあ手伝ってやろうよ。なに待ってんだよ? 二人、ポゾーを立たせて、手を放す。ポゾー、倒れる。2026/02/07 20:11:5293.夢見る名無しさんウラジミール 支えてなきゃだめだ。(二人、もう一度ポゾーを立たせる。ポゾー、腕を二人の首に回して、二人の間にぶら下がる)楽になった?ポゾー お前、誰だ?ウラジミール 俺のこと、分からないの?ポゾー 目が見えないんでね。 沈黙。エストラゴン きっと未来は見えるんだ。ウラジミール いつから?ポゾー 視力は抜群だったんだ。君らは友達?エストラゴン (けたたましく笑って)俺達が友達かどうか知りたいんだってさ。ウラジミール 違うよ、こいつの友達かどうか聞いてるんだよ。エストラゴン で?ウラジミール 友達だって自信を持って言えるよ。助けてやったんだから。エストラゴン なるほど。友達じゃなかったらはたして助けたかどうか。ウラジミール 助けたな、多分。エストラゴン それもそうだ。ウラジミール そこ、今は深入りしないでおこう。ポゾー 君ら、追剥か?エストラゴン 追剥! 俺達が追剥に見えるってか?ウラジミール 馬鹿、目が見えないんだから!エストラゴン あ、そうだった! (間)本人が言うにはね。ポゾー 置いてかないでくれ!ウラジミール そんなことするか。エストラゴン 今のところは。ポゾー 今何時?ウラジミール (空を見て)七時かな……八時かなぁ……。エストラゴン そりゃ、一年のうちのいつ頃かによるな。ポゾー 今は夕方なのか? 沈黙。ウラジミールとエストラゴン、夕陽をじっと見つめる。2026/02/07 20:13:0394.夢見る名無しさんエストラゴン 日が昇る。ウラジミール まさか。エストラゴン きっと夜明けだ。ウラジミール 馬鹿だな。西だよ、あっちは。エストラゴン なんで分かる?ポゾー (苦悶して)夕方なのか?ウラジミール どっちにしても日は動いてないよ。エストラゴン 昇ってるって言っただろ。ポゾー なんで答えてくれない?エストラゴン チャンスをくれよ。ウラジミール (安心させるように)夕方だよ、夕方。夜の帳が下りてきた。ここにいる俺の友達は、そうじゃないって思わせようとした。 正直、一瞬心が揺れたよ。けど、俺だってこの長い一日を無駄に生きてきたわけじゃないんだ。 保証するよ、今日のレパートリーの終焉間近だって。(間)具合はどうだ?エストラゴン 何時までこいつをぶら下げてなきゃならないの? (二人、ポゾーを離そうとしてみるが、ポゾーが倒れそうになるので、また掴まえる) 俺達、石像じゃないよ!ウラジミール あんた、目はよかったってことだよな。俺の聞き違いじゃなければ。ポゾー 視力は抜群だったよ! そりゃもう、よく見えたもんだ! 沈黙。エストラゴン (苛々して)話、続けて! 膨らませてよ!ウラジミール ほっといてやれよ。幸福だった頃に思いを馳せてるのが分からないのか? (間) メモリア・プラエテリトールム・ボノールム{ラテン語。「過去は何時でも美しい」の意}---辛いだろうな。エストラゴン 分からないよ、俺達には。ウラジミール で、突然そうなったわけ?ポゾー 本当に素晴らしく目がよかったんだ!ウラジミール 突然そうなったのか聞いてるんだよ。ポゾー ある晴れた日、目覚めたら見えなくなっていた。運命の女神と同じくらい盲目になっていたんだ。(間)時々思うよ。 まだ眠ってるんじゃないかってね。ウラジミール それはいつのこと?ポゾー さあね。2026/02/07 20:15:1395.夢見る名無しさんウラジミール でも、昨日より前じゃ---ポゾー (激しく)私に聞くな! 盲人には時間の観念がないんだ。時間に関する事柄も、盲人たちからは隠されているんだよ。ウラジミール そりゃびっくりだ! 絶対逆だと思ってたよ。エストラゴン 俺、行くわ。ポゾー ここはどこだ?ウラジミール さあね。ポゾー ひょっとして舞台とか呼ばれる場所じゃないよね?ウラジミール 聞いたことないな。ポゾー どんなところ?ウラジミール (見回して)何とも言えないな。何にも似てないし。何もない。木が一本だけ。ポゾー じゃあ舞台じゃないな。エストラゴン (盛り下がって)なんか気晴らしはないの!ポゾー 私の召使はどこだ?ウラジミール どっかその辺にいるよ。ポゾー なんで呼んでも返事がないんだろう?エストラゴン さあね。眠ってるみたいだよ。死んでるのかもね。ポゾー 何があったんだ、厳密に言うと?エストラゴン 厳密に、だってさ!ウラジミール あんたたち二人とも滑って転んだんだよ。(間)転倒したんだ。ポゾー あいつ怪我してないか、見て来てもらえないかな?ウラジミール あんたから手が離せないだろ。ポゾー 二人で行かなくても。ウラジミール (エストラゴンに)お前行けよ。エストラゴン あんなことされたのに? 絶対やだ!ポゾー そうだよそうだよ、君の友達に行ってもらいたいな、ものすごく臭いんだ。(沈黙)この人は何を待ってるのかな?ウラジミール お前、何を待ってるんだっけ?エストラゴン ゴドーを待ってる。 沈黙。2026/02/07 20:16:5196.夢見る名無しさんウラジミール こいつ、正確には何をすればいい?ポゾー まずロープを引いてくれ。好きなだけ強く。首を絞めないようにね。奴は普通ならそれに反応するはずだ。 もし反応がなければ、ブーツで一発お見舞いしてやればいい。顔と急所を思いきりね。ウラジミール (エストラゴンに)な、怖がることないよ。ていうか、復讐のチャンスだよ。エストラゴン もし奴が防御したら?ポゾー いやいや、奴は防御したことなんかないよ。ウラジミール 俺が飛んでって助けてやるよ。エストラゴン ちゃんと見ててよ。 エストラゴン、ラッキーの所に行く。ウラジミール まず生きてるか確認しろよ。死んでたら意味ないからな。エストラゴン (ラッキーの上に身を屈めて)息してるよ。ウラジミール じゃ、やっちまえ。 エストラゴン、突然怒りがこみ上げて、罵声を浴びせながらラッキーを蹴り始める。が、自分の足を痛めて、片足を引き摺り、唸り声を上げながら離れる。ラッキー、目を覚ます。エストラゴン 何だよ、このけだものめ! エストラゴン、土の盛り上がった所に座って、ブーツを脱ごうとする。が、すぐに思い直し、眠りにつこうと、両腕で膝を抱え、顔を腕に埋める。ポゾー 何かまずいことでも?ウラジミール 友達が怪我をした。ポゾー ラッキーもか?ウラジミール てことは奴はそうなんだな?ポゾー え?ウラジミール ラッキーなんだな?ポゾー 何のことだ。ウラジミール で、あんたはポゾーだな?ポゾー もちろんポゾーだ。ウラジミール 昨日と同じ?ポゾー 昨日だって?2026/02/07 20:18:3497.夢見る名無しさんウラジミール 俺達、昨日会ったよな。(沈黙)覚えてないか?ポゾー 昨日誰かに会ったなんて覚えてないね。だが、明日になったら、今日誰かに会ったなんて覚えちゃいないさ。だから私を当てにしないことだ。ウラジミール でも---ポゾー もう沢山だ。立てよ、豚!ウラジミール あんたはそいつを市場に売りに行こうとしてた。あんたは俺達に話をしてくれた。そいつは踊ったし考えてみせた。あんたは目が見えた。ポゾー そう言いたいなら言えばいい。放してくれ! (ウラジミール、離れる)立て! ラッキー、立ち上がって荷物をかき集める。ウラジミール ここからどこへ?ポゾー 行くぞ! ラッキー、荷物を持ってポゾーの前に控える。ポゾー 鞭だ! (ラッキー、荷物を全部置いて鞭を探し、見つけ、ポゾーの手に握らせ、また荷物を全部持つ)ロープだ! (ラッキー、荷物を全部置いてロープの端をポゾーの手に握らせ、また荷物を全部持つ)ウラジミール かばんの中には何が?ポゾー 砂だよ。(ロープを引いて)進め!ウラジミール まだ行かないで!ポゾー 行くよ。ウラジミール 助けが呼べない状況で倒れたらどうするんだよ。ポゾー 起き上がれるようになるまで待てばいい。そして進むだけだ。進め!ウラジミール 行っちまう前に、歌うように言ってくれよ。ポゾー 誰に?ウラジミール ラッキーだよ。ポゾー 歌えと?2026/02/07 20:20:1598.夢見る名無しさんウラジミール そう。でなけりゃ、考えろって。でなけりゃ、何か語れってさ。ポゾー しかしこいつは口がきけないんだ。ウラジミール 口がきけない!ポゾー 口がきけないんだ。唸ることも出来ない。ウラジミール 口がきけないって! いつからだよ。ポゾー (急にカッとして)くそったれな時間の話で俺をいじめるのは、いい加減にしてくれ! いつのことだ! とか、いつからだ! とか。 ある日、それじゃ足りないのか? いつもと同じ、ある日じゃ。ある日、あいつは口がきけなくなった。ある日、私は目が見えなくなった。 ある日、私達は耳も聞こえなくなるだろう。ある日、私達は生まれた。ある日、死ぬ。いつもと同じ一日、同じ瞬間。それじゃ足りないのか? (少し気を静めて)女たちは墓穴に跨って子供を産む。日の光が束の間瞬いて、そしてまた夜が来る。(ロープを引いて)進め! ポゾーとラッキー、退場。ウラジミール、舞台端まで追いかけ、見送る。転倒する音。ウラジミールのマイムが、二人がまた倒れたことをダメ押しのように伝える。沈黙。ウラジミール、エストラゴンのもとに行き、しばしじっと見つめ、やがて揺り起こす。エストラゴン (暴れる仕草。支離滅裂な言葉。やがて)なんで寝かせておいてくれないの?ウラジミール 淋しかったんだ。エストラゴン 幸福な夢、見てたのに。ウラジミール 暇つぶしにはなったな。エストラゴン その夢はね---ウラジミール (激しく)言うな! (沈黙)あいつ、本当に目が見えなかったのかな。エストラゴン 目が見えなかったって、誰が?ウラジミール ポゾーだよ。エストラゴン 目が見えなかったの?ウラジミール 本人がそう言ってた。エストラゴン で、それがどうかした?ウラジミール 俺達のこと、見てた気がした。2026/02/07 20:22:2199.夢見る名無しさんエストラゴン 夢でも見たんだろ。(間)行こうよ。駄目か。ああもう! (間)本当にあいつは違ったの?ウラジミール 誰?エストラゴン ゴドー。ウラジミール だから、誰が?エストラゴン ポゾー。ウラジミール 全然違うよ! (少し自信を無くして)違うだろ! (さらに自信を無くして)違うさ!エストラゴン とりあえず、立ち上がるとするか。(痛そうに立ち上がって)痛っ! ジジ!ウラジミール もう何をどう考えたらいいのか分からない。エストラゴン 足! (座って、ブーツを両方脱ごうとして)手伝ってよ!ウラジミール 俺は眠ってたのか? 他の奴等が苦しんでいる時に。今も眠ってるのか?明日、目が覚めたら、いや、目が覚めたと思ったら、今日のことをなんて言うんだろう? 友達のエストラゴンと、この場所で、日が暮れるまでゴドーを待ったって? ポゾーが荷物持ちと通りかかって、俺達に話しかけたって? そうかもな。けど、そこにどれほどの真実がある? (エストラゴン、ブーツと格闘するがうまくいかず、またうたた寝をする。ウラジミール、その姿をじっと見つめて)こいつは何も知らないままだ。また殴られた話をして、俺はニンジンをやるだろう。(間)墓穴に跨って子供を産む。難産だ。穴の底じゃあ、墓掘りたちがのろのろと分娩用の鉗子を使って赤ん坊を取り出す。俺達はゆっくり老いていく。空気中には俺達の叫び声が充満してる。(耳を澄まして)けど習慣とは、大した消音材だよ。(またエストラゴンを見て)俺だって。誰かが俺を見て言ってるよ、こいつは眠ってる、何も知らない、眠らせといてやれって。(間)もうこんな生活、やってられないよ! (間)俺、何言ってるんだ? ウラジミール、興奮して行ったり来たりし、やがて舞台上手端で立ち止まり、考え込む。下手から少年、登場。立ち止まる。沈黙。2026/02/07 20:24:18100.夢見る名無しさん少年 あのぉ……(ウラジミール、振り向く)アルバートさん……ウラジミール またかよ。(間)俺のこと、分からない?少年 分かりません。ウラジミール 君、昨日も来なかった?少年 来てませんけど。ウラジミール これが初めて?少年 はい。 沈黙。ウラジミール ゴドーさんから伝言、あるんだろ?少年 はい。ウラジミール 今夜は来られないって。少年 はい。ウラジミール でも明日は来る。少年 はい。ウラジミール 絶対に。少年 はい。 沈黙。ウラジミール 誰かに会った?少年 会ってませんけど。ウラジミール 二人の……(ためらって)……人間にも?少年 誰にも。 沈黙。2026/02/07 20:25:34101.夢見る名無しさん 沈黙。ウラジミール ゴドーさんって、何してるの? (沈黙)聞いてるの?少年 聞いてます。ウラジミール で?少年 特に何も。 沈黙。ウラジミール 君の兄弟は元気なの?少年 病気なんです。ウラジミール 昨日来たのはその子かな。少年 僕、分かりません。 沈黙。ウラジミール (優しく)髭、はやしてる? ゴドーさんて。少年 はやしてますけど。ウラジミール 金色? それとも……(ためらって)……黒い髭?少年 白かな。 沈黙。ウラジミール 神様、私達にお慈悲を! 沈黙。2026/02/07 20:26:45102.夢見る名無しさん少年 ゴドーさんにはなんて?ウラジミール そうだなぁ……(ためらって)……俺と、あと……(ためらって)……俺に会ったって伝えてくれ。 (間。ウラジミール、前に出る。少年、後ずさりする。ウラジミール、立ち止まる。少年、立ち止まる。いきなり激昂して) 確かに俺に会ったよな! 明日またやって来て、俺に会ったことないなんて言わせないぞ! (沈黙。ウラジミール、いきなり前に飛び出す。少年、身をかわして走って退場。沈黙。日が落ちて、月が上がる。 第一幕と同様に、ウラジミール、うなだれて立ち尽くす。エストラゴン、目を覚まし、両方のブーツを脱ぎ、片足ずつ持って立ち上がり、 舞台前面中央に置き、それからウラジミールのもとに行く)エストラゴン どうかした?ウラジミール 何でもないよ。エストラゴン 俺、行くわ。ウラジミール 俺も。エストラゴン 長いこと、眠ってた?ウラジミール さあね。 沈黙。エストラゴン どこ行く?ウラジミール 遠くは無理だよ。エストラゴン えー、遠くまで行こうよ。ウラジミール 駄目だよ。エストラゴン なんで?ウラジミール 明日戻って来なくちゃ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう! (沈黙)ゴドー、来なかったの?ウラジミール うん。2026/02/07 20:31:02103.夢見る名無しさんエストラゴン もう遅いしね。ウラジミール うん。もう夜だしな。エストラゴン すっぽかしたらどうかな? (間)すっぽかしちゃったら?ウラジミール 酷い目に合わされるよ。(沈黙。木を見て)なにもかも死んでる。けど、木だけは生きてる。エストラゴン (木を見て)あれ、何?ウラジミール 木だよ。エストラゴン うん。何の木かな?ウラジミール さあね。柳かなぁ。 エストラゴン、ウラジミールを木の方に引っ張って行く。二人、木の前で立ち尽くす。沈黙。エストラゴン ねえ、首吊ろうよ。ウラジミール どうやって?エストラゴン ロープかなんか、持ってないの?ウラジミール ないよ。エストラゴン じゃ、駄目だね。 沈黙。ウラジミール 行こうか。エストラゴン ちょっと待って、ベルトがあった。ウラジミール 短いだろ。エストラゴン 脚、引っ張ってくれよ。ウラジミール 俺の脚は誰が引っ張るんだよ?エストラゴン 確かに。ウラジミール とにかく見せてみなよ。(エストラゴン、だぶだぶのズボンを締めている紐をゆるめる。ズボンが足首までずり落ちる。二人、紐を見て) いざとなれば、いけそうだな。けど、千切れないかな?エストラゴン 確かめてみようよ。ほら。2026/02/07 20:32:43104.夢見る名無しさん 二人、それぞれの端を持って引っ張る。紐、千切れる。二人、転びそうになる。ウラジミール 話にならん。 沈黙。エストラゴン 明日、戻って来るって言ったよね?ウラジミール うん。エストラゴン じゃあ丈夫なロープ、持ってこようよ。ウラジミール そうだな。 沈黙。エストラゴン ジジ。ウラジミール うん。エストラゴン もうこんな生活、やってられないよ。ウラジミール お前、そう思ってるんだな。エストラゴン ねえ、別れたらどうかな? 俺達、別れた方がいいんじゃないかな。ウラジミール 明日、首を吊ろう。(間)ゴドーが来なかったらね。エストラゴン もし来たら?ウラジミール 俺達は救われる。 ウラジミール、(ラッキーの)帽子を脱ぎ、中を見回し、内側を手で探り、振って、山を叩き、またかぶる。2026/02/07 20:33:34105.夢見る名無しさんエストラゴン いい? 行こうよ。ウラジミール ズボンを上げなよ。エストラゴン え?ウラジミール ズボンを上げなって。エストラゴン ズボンを脱げって?ウラジミール ズボンを上げなってば。エストラゴン (ズボンがずり落ちていることに気付いて)本当だ。(ズボンを上げる)ウラジミール じゃあ、行こうか?エストラゴン うん、行こう。 二人、動かない。 幕。2026/02/07 20:34:16106.夢見る名無しさんヤナギ2026/02/07 21:42:33
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翌日。同じ時間。同じ場所。
エストラゴンのブーツが、踵を揃えてつま先を開いた格好で、舞台前面中央に置いてある。同じ場所にラッキーの帽子。
木には四、五枚の葉っぱ。
ウラジミール、興奮して登場。立ち止まってじっと木を見、やおら鼻息も荒く舞台中を動き回り始める。
ブーツの前で立ち止まり、片方をつまみ上げ、調べ、匂いを嗅ぎ、嫌悪感を露にし、そっと元に戻し、行ったり来たりする。
下手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、片手を目の上にかざして遠くを見渡し、行ったり来たりする。
上手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、同じことをする。行ったり来たりする。いきなり立ち止まって大声で歌い始める。
犬が忍び込んだよキッチンに
パンを盗んだってさ
そしたらコックが現れて
おたまで叩き殺しちゃったとさ
そしたら犬が走って来たよみんなで
犬の墓を掘っ---
(中断して考え込み、また歌い出す)
そしたら犬が走って来たよみんなで
犬の墓を掘ったってさ
そして墓石にこう刻んだよ
犬たちの目につくようにさ
犬が忍び込んだよキッチンに
パンを盗んだってさ
そしたらコックが現れて
おたまで叩き殺しちゃったとさ
そしたら犬が走って来たよみんなで
犬の墓を掘っ---
(中断して考え込み、また歌い出す)
すると犬が走って来たよみんなで
犬の墓を掘っ---
(中断して考え込み、低い声で)
犬の墓を掘ったってさ……
木の前でいったん立ち止まり、行ったり来たりし、ブーツの前でいったん立ち止まり、行ったり来たりし、下手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、
遠くを見つめ、上手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、遠くを見つめる。エストラゴン、裸足でうなだれて下手から登場。ゆっくりと舞台を横切る。
ウラジミール、振り向いてエストラゴンを見る。
ウラジミール また来たな! (エストラゴン、立ち止まるが頭を上げない。ウラジミール、エストラゴンの元へ行く)おいで、抱き締めてやるから。
エストラゴン 触るなよ!
ウラジミール、思いとどまる。傷ついて。
ウラジミール あっち行けってか? (間)ゴゴ! (間。ウラジミール、エストラゴンをじっくり観察して)殴られたのか? (間)ゴゴ!
(エストラゴン、黙ってうなだれたまま)昨夜どこにいた?
エストラゴン 触るなよ! 聞くなよ! 話しかけるなよ! 一緒にいてよ!
ウラジミール お前のこと、放っといたことなんてあったか?
エストラゴン 俺のこと、止めなかったよね。
ウラジミール こっち向いて。(エストラゴン、顔を上げない。激しく)ちょっと見てくれないかな!
エストラゴン、顔を上げる。二人、長い間見つめ合い、突然抱き合って、互いの背中を叩き合う。抱擁終了。エストラゴン、支えを失って転びそうになる。
ウラジミール 誰に殴られたんだよ? 行ってみな。
エストラゴン おかげでまた一日が過ぎた。
ウラジミール まだだよ。
エストラゴン 俺にとっては、もう終わったんだ、これから何が起こったってさ。(沈黙)お前、歌うたってただろ。
ウラジミール そういや、歌ってたな。
エストラゴン やられたよ。俺、思ったんだ、あいつは独りぼっちだ、俺が永遠に行っちゃったと思ってる。なのに歌なんか歌ってるって。
ウラジミール 気分ってものは思い通りにはいかないもんだ。俺、一日中元気はつらつだったんだよ。(間)夜中に一回も起きなかったからな!
エストラゴン (悲しげに)ほらね、俺がいない方がおしっこの出がいいんじゃないか。
ウラジミール 淋しかったよ……と同時にハッピーだった。おかしいよな。
エストラゴン (ショックを受けて)ハッピーだった?
ウラジミール 適切な言葉じゃないかもしれないけど。
エストラゴン で、今はどうなの?
ウラジミール 今? ……(嬉しそうに)またお前と一緒だ……(淡々と)また二人一緒かよ……(暗く)またここか。
エストラゴン ほらね、俺が一緒だと落ち込むんだ。俺だって独りの方が気分いいよ。
ウラジミール (いらっとして)じゃあ、なんでいつもぼろぼろになって戻って来るんだよ。
エストラゴン さあね。
ウラジミール 俺にはちゃーんと分かってる。お前は自分の身を守れないからな。俺が一緒だったら殴らせたりしなかったよ。
エストラゴン そんなに甘かないよ。
ウラジミール どういうことだよ。
エストラゴン 十人いたんだから。
ウラジミール 違うよ。俺が言ってるのは、殴られる前の話だ。人から殴られるようなことをお前にさせなかったってことだよ。
エストラゴン 何もしてないよ。
ウラジミール じゃあなんで殴られたんだよ。
エストラゴン 知るか。
エストラゴン だって、何もしてないもん。
ウラジミール そうかもな。けど、物事には、ちゃんとしたやり方ってものがあるんだよ、やり方ってものが。お前がそのまんま生きていきたいならね。
エストラゴン 何もしてないってば。
ウラジミール お前だって嬉しいはずだよ、本当は。気付いていないだけで。
エストラゴン 嬉しいって、何が?
ウラジミール 俺の所に帰ってきたことだよ。
エストラゴン よく言うよ。
ウラジミール とりあえず言ってみなよ。嘘でもいいから。
エストラゴン 何て?
ウラジミール 嬉しいなって。
エストラゴン 嬉しいな。
ウラジミール 俺も。
エストラゴン 俺も。
ウラジミール 俺達、ハッピー。
エストラゴン 俺達、ハッピー。(沈黙)で、どうする? ハッピーになったところで。
ウラジミール ゴドーを待つ。(エストラゴン、呻き声を出す。沈黙)昨日から変化したことだってあるんだよ。
エストラゴン けど、もし来なかったら?
ウラジミール (一瞬うろたえて)その時になったら考えよう。(間)昨日から変化したことがあるって言っただろ。
エストラゴン 何もかもじわじわ減っていくんだ。
ウラジミール 見ろよ、あの木。
エストラゴン 膿の量だって一瞬一瞬で変わっていく。
ウラジミール 木だよ、あの木、見てみなって。
エストラゴン、木を見上げる。
ウラジミール あったよ、勿論。覚えてないのか? もうちょっとで首吊るとこだったんだぞ。お前、吊らなかったけどさ。忘れちまったのか?
エストラゴン 夢でも見たんだろ。
ウラジミール もう忘れたって、そんなのあり?
エストラゴン 俺ならね。すぐ忘れるか、絶対忘れないかどっちかだ。
ウラジミール じゃあ、ポゾーとラッキーは? あいつらのことも忘れたのか?
エストラゴン ポゾーとラッキーって?
ウラジミール こいつ、何でもかんでも忘れちまうよ!
エストラゴン そういえばあ、俺の向こう脛を蹴っ飛ばした頭のいかれた奴、いたなぁ。そいつ、なんか馬鹿やってた。
ウラジミール それ、ラッキーだよ。
エストラゴン 思い出した。でも、それ、いつだっけ?
ウラジミール そいつのボスがいただろ? 覚えてないか?
エストラゴン 骨、もらった。
ウラジミール それがポゾーだ。
エストラゴン で、それが全部昨日のことだっていうわけ?
ウラジミール その通り。
エストラゴン で、今俺達がいるのは?
ウラジミール どこだと思う? ここ、見覚えないか?
エストラゴン (いきなり激怒して)見覚え! そんなもんあるわけないだろ! 俺のお粗末な人生でさ!
泥の中をはいずり回ってきたっていうのに! よく俺に向かって、風景の話なんか! (周囲を荒々しく見回して)見ろよ、この糞の山!
ここから出られたことあったか!
ウラジミール まあまあ。
エストラゴン 景色って、なんだよ! ウジ虫の話でもしてろよ!
ウラジミール だからってお前、これ(身振りで示して)がマコン地方と似てるなんて言うなよ。全然違うからな。
エストラゴン マコン地方だと! 誰がマコン地方のことなんか言ったよ!
ウラジミール でもお前、マコン地方にいたことあったよな。
ウラジミール けど、俺たちマコン地方にいたじゃないか、誓ってもいい。一緒に葡萄摘んでただろ、ほら、あの人の家だ(指を鳴らして)
……名前は思い出せないけど、ほら、あそこだ(指を鳴らして)……場所の名前も思い出せないけど。覚えてない?
エストラゴン (少し落ち着いて)かもね。俺、なんでも見過ごしちゃうからね。
ウラジミール え、あそこじゃなんでもかんでも赤かったのに!
エストラゴン (爆発して)俺はなんでも見過ごすんだってば!
沈黙。ウラジミール、深いため息。
ウラジミール お前とやってくのは難しいよ、ゴゴ。
エストラゴン 別れた方がいいかもね。
ウラジミール そればっかりだ。ぼろぼろになって戻って来るくせに。
エストラゴン 俺を殺すのが一番だよ。他の奴みたいにさ。
ウラジミール 他の奴? (間)他の奴って?
エストラゴン 他の何十億人もの奴。
ウラジミール (格言ぽく)人は皆小さき十字架を背負うものなり。(ため息をついて)やがてその生を終えるまで。(思いついて)そして忘れられる。
エストラゴン じゃ、とりあえず穏やかに話をしようよ。黙ってるなんてできっこないんだからさ。
ウラジミール それもそうだな。俺達、話のネタは尽きないからな。
エストラゴン おかげでものを考えなくて済むね。
ウラジミール 言い訳が立つからな。
エストラゴン おかげで聞かなくて済むよね。
ウラジミール 理由があるからな。
エストラゴン この死んだ奴ら全員の声をさ。
ウラジミール こいつら羽音みたいにかさかさ音をたてる。
エストラゴン 木の葉っていうか。
ウラジミール 砂というか。
エストラゴン 木の葉っていうか。
沈黙。
エストラゴン みんな独り言だけど。
沈黙。
ウラジミール というか、ささやく。
エストラゴン ひそひそ。
ウラジミール ざわざわ。
エストラゴン ひそひそ。
沈黙。
ウラジミール こいつら、なんて?
エストラゴン 自分の人生のこと喋ってんだよ。
ウラジミール 生きただけじゃ足りないんだな。
エストラゴン 喋らずにいられないんだ。
ウラジミール 死んだだけじゃ足りないんだな。
エストラゴン 足りないんだよ。
沈黙。
ウラジミール 羽みたいにかさかさ音をたてる。
エストラゴン 木の葉っていうか。
ウラジミール 灰というか。
エストラゴン 木の葉っていうか。
長い沈黙。
エストラゴン えーっと。
長い沈黙。
ウラジミール (怒って)なんか言えったら!
エストラゴン 今、何してるんだっけ?
ウラジミール ゴドーを待ってる。
エストラゴン ああもう!
沈黙。
ウラジミール 駄目だな!
エストラゴン 歌ってよ。
ウラジミール 駄目駄目! (思案して)始めからやり直してみる?
エストラゴン それ、簡単そうだ。
ウラジミール 出だしが難しいけど。
エストラゴン 出だしなんか、何だっていいよ。
ウラジミール だな。でも、決めなくちゃ。
エストラゴン だね。
沈黙。
ウラジミール 協力しろよ!
エストラゴン えーっと。
沈黙。
エストラゴン くる、くる。
ウラジミール 聞こえてくると、見つからなくなるよな。
エストラゴン なる、なる。
ウラジミール そうすると考えなくなるよな。
エストラゴン でも考えてるじゃん。
ウラジミール いやいや、そんなわけないよ。
エストラゴン それだよ、言い合いしてみようよ。
ウラジミール 考えてないってば。
エストラゴン って考えてるんだろ。
ウラジミール 俺達はもう、ずーっと考え続ける心配はないんだってば。
エストラゴン だったら俺達、なんで文句言ってるんだよ。
ウラジミール 考えることだって最悪ってわけじゃないし。
エストラゴン かもね。けど少なくともあれだよ。
ウラジミール あれって?
エストラゴン それだよ、質問し合えばいいんだ。
ウラジミール 少なくともあれだよってどういう意味だよ。
エストラゴン この方がずーっとましだってこと。
ウラジミール 確かに。
エストラゴン ね? 自分達の幸運に感謝したらどうかな?
ウラジミール 怖いのはさ、もうとっくに考えちゃったってことだよ。
エストラゴン でも、俺達、考えたことなんてあったっけ?
ウラジミール この死んだ奴ら全員、どこから来たんだよ?
エストラゴン この骸骨達か。
ウラジミール な。
エストラゴン 確かに。
ウラジミール 俺達、ちょっと考えちゃっただろ。
エストラゴン 始まった途端にね。
ウラジミール 死体安置所だな! 死体安置所!
エストラゴン 見なくていいよ。
ウラジミール どうしたって目に入るだろ。
エストラゴン 確かに。
エストラゴン はい?
ウラジミール 流れに任せるんだ。
エストラゴン 思い切って素の状態に戻るべきだね。
ウラジミール そうしてきたよな、俺達。
エストラゴン 確かに。
ウラジミール そうだ、やっぱり最悪ってわけじゃないよ。
エストラゴン 何が?
ウラジミール 考えちゃったってことさ。
エストラゴン 当たり前だよ。
ウラジミール けど、考えなくてもよかったんだ。
エストラゴン ク・ヴレ・ヴ?(フランス語で「しょうがないじゃないですか」の意)
ウラジミール は?
エストラゴン ク・ヴレ・ヴ?
ウラジミール ああ、ク・ヴレ・ヴね! おっしゃる通り。
沈黙。
エストラゴン 小手調べとしては、悪くなかったよね。
ウラジミール まあな。けど今度はまた別のネタを見つけなきゃ。
エストラゴン えーっと。
エストラゴン、帽子を脱いで集中する。
ウラジミール えーっと。(帽子を脱いで集中する。長い間)あっ!
二人、帽子をかぶり、リラックス。
エストラゴン で?
ウラジミール 俺、なんて言ったよ? そこから始めればいいんだ。
エストラゴン なんて言ったか? いつ?
ウラジミール 一番初めだよ。
ウラジミール 今夜……えっと……えーっと……
エストラゴン 俺、歴史学者じゃないからね。
ウラジミール えっと……抱き合って……ハッピーになって……ハッピー……ハッピーになったところでどうするんだって言って……
待とうよって……待って……えっと……もうちょっとだ……待とうよって……俺達、ハッピーになって……えっと……あっ! 木だ!
エストラゴン 木?
ウラジミール 覚えてないのか?
エストラゴン 疲れちゃった。
ウラジミール ほら。
二人、木を見る。
エストラゴン 別に。
ウラジミール いやいや、昨夜は枯れ木だったろ。ところが今日は葉っぱがついてる。
エストラゴン 葉っぱって?
ウラジミール たった一晩でだぞ。
エストラゴン 春だねぇ。
ウラジミール でも一晩でだぞ!
エストラゴン だからぁ、俺達、昨夜はここにいなかったんだってば。また悪夢でも見たんだろ。
ウラジミール じゃあ、俺達昨夜どこにいたか、言ってみなよ。
エストラゴン 知るか。どっか別の小屋だよ。がらがらの場所なんてそこら中にあるんだから。
ウラジミール (自分の考えを確信して)よし。昨夜はここにいなかったとしよう。じゃあ、俺達、昨夜何してた?
エストラゴン 何してた?
ウラジミール 思い出してみなよ。
エストラゴン えっと……お喋りかな。
ウラジミール (自分を抑えて)どんな?
昨夜俺達は、特にこれといったこともなく、お喋りをしたよ。半世紀の間ずーっとそうしてきたよ。
ウラジミール お前、何が起こったとか、どんな状況だったとか、覚えてないわけ?
エストラゴン (うんざりして)虐めないでよ、ジジ。
ウラジミール 太陽とか。月とか。覚えてないの?
エストラゴン どうせそこにあったんだろ、いつも通り。
ウラジミール いつもと違うことには何も気づかなかった?
エストラゴン ううっ。
ウラジミール じゃあポゾーは? ラッキーは?
エストラゴン ポゾーって?
ウラジミール 骨だよ。
エストラゴン あれ、魚の骨みたいだったな。
ウラジミール あの骨、くれたのがポゾーだよ。
エストラゴン ふうん。
ウラジミール それに蹴られた。
エストラゴン そうだよ、誰か俺を蹴りやがった。
ウラジミール それ、ラッキーね。
エストラゴン 全部昨日だっていうの?
ウラジミール 足、見せてみなよ。
エストラゴン どっち?
ウラジミール 両方だ。ほらズボンめくって。(エストラゴン、片足を差し出して、よろめく。ウラジミール、その足を掴んで、二人、よろめく)
ズボンめくれってば。
エストラゴン 無理。
ウラジミール、エストラゴンのズボンをめくりあげて足を見て、離す。エストラゴン、倒れそうになる。
ウラジミール 逆だよ。(エストラゴン、同じ足を出す)反対の足だってば、豚野郎! (エストラゴン、もう片方の足を出す。勝ち誇ったように)
ほら傷! 膿かけてるぞ!
エストラゴン それが何か?
ウラジミール (足を離して)お前のブーツは?
エストラゴン どこかに捨てちゃったみたい。
ウラジミール いつ?
ウラジミール なんで?
エストラゴン (爆発して)なんで分かんないか分かんないよ!
ウラジミール 違うよ。なんで捨てちゃったのか聞いてるんだよ。
エストラゴン (爆発して)痛かったんだよ!
ウラジミール (勝ち誇ったように、ブーツを指差して)ほらそこにある! (エストラゴン、ブーツを見る)
お前が昨日ブーツを置いていった、まさにその場所だ!
エストラゴン、ブーツに近寄り、しげしげと調べる。
エストラゴン 俺のじゃないね。
ウラジミール (びっくり仰天して)お前のじゃない!
エストラゴン 俺のは黒かった。これ、茶色。
ウラジミール 黒かったって、確かか?
エストラゴン うーん、グレーっていうか。
ウラジミール で、これは茶色か? 見せてみな。
エストラゴン (ブーツの片方をつまみ上げて)うーん、グリーンっていうか。
ウラジミール 見せろよ。(エストラゴン、ブーツを渡す。ウラジミール、それをよく見て、怒って投げ捨てて)何だってこんな---
エストラゴン ね、なにもかもひどいもんだ---
ウラジミール あ! 分かった。うん、そうだ、分かったよ。
エストラゴン なにもかもひどい---
ウラジミール 単純な話だよ。誰かが来て、お前のを履いて、自分のを置いてった。
エストラゴン なんで?
ウラジミール 自分のがきつかったから、お前のを履いてったんだよ。
エストラゴン 俺のだってきつかったよ。
ウラジミール お前にはな。でもそいつにはよかったんだよ。
エストラゴン (理解しようと頑張ってみたが無理で)疲れちゃった。(間)もう行こうよ。
ウラジミール だめ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう! (間。絶望して)じゃあどうすんだよ、ねえどうすんだよぉ!
エストラゴン けど、もううんざりだよ、こんなの。
ウラジミール カブ、食べる?
エストラゴン カブしかないの?
ウラジミール カブとダイコン。
エストラゴン ニンジンは?
ウラジミール ないよ。だいたいお前、ニンジンニンジン言いすぎだよ。
エストラゴン じゃあカブでいい。(ウラジミール、ポケットの中を探るが、ダイコンしか見つからない。
やがてカブを引っ張り出し、エストラゴンに渡す。エストラゴン、カブを調べ、匂いを嗅いで)黒くなってる!
ウラジミール カブだよ。
エストラゴン ピンクのじゃなきゃいやなの、知ってるくせに!
ウラジミール じゃあいらないんだな?
エストラゴン ピンクじゃなきゃ、やだ!
ウラジミール じゃあ返せよ。
エストラゴン、返す。
エストラゴン 俺、行くわ。ニンジンを求めて。
エストラゴン、動かない。
ウラジミール 本当、どうでもいい話になってきたな。
エストラゴン まだまだだよ。
沈黙。
ウラジミール 試してみたら?
エストラゴン もう全部やってみた。
ウラジミール いやいや、ブーツがあるって。
エストラゴン それ、何かいいことあるかな?
ウラジミール 暇つぶしになるよ。(エストラゴン、ためらう)ほんとほんと、気晴らしになるって。
エストラゴン 骨休めね。
エストラゴン 骨休めね。
ウラジミール やってみな。
エストラゴン 手伝ってくれる?
ウラジミール 勿論。
エストラゴン 俺達、そこそこうまくやってるよね? ねえジジ、俺たち二人でさ。
ウラジミール うんうん。さあ左からだ。
エストラゴン 俺達、いつもなんか見つけるもんね。ねえジジ、おかげで生きてるって気がするよね。
ウラジミール (じりじりしながら)うんうん、俺達は魔術師だな。けど決めたことはやり通そうよ、忘れる前にさ。
(ブーツをつまみ上げて)さ、足出せよ。逆だ、この豚野郎! (エストラゴン、反対の足を上げる)もっと上げて!
(二人、絡まり合ってよろめきながら舞台をあちこちする。ウラジミール、ようやくブーツを履かせることに成功して)歩いてみな。
(エストラゴン、歩いてみる)どうよ?
エストラゴン ぴったりだよ。
ウラジミール (ポケットから紐を取り出しながら)紐、結んでみようか。
エストラゴン (激しく)やだやだやだ、紐はやだ、紐だけは!
ウラジミール 後悔するぞ。もう片っぽもはいてみよう。(前と同様に)どうよ?
エストラゴン (しぶしぶ)こっちもぴったり。
ウラジミール 痛くない?
エストラゴン 今のところはね。
ウラジミール じゃあ、もらっとけよ。
エストラゴン 大き過ぎるもん。
ウラジミール そのうち靴下が手に入るよ、きっと。
エストラゴン うん。
ウラジミール じゃあ、もらっとくよな?
エストラゴン ブーツのことはもういいよ。
ウラジミール うん、だけど---
エストラゴン (激しく)もういいってば! (沈黙)まあ、座ろうかな。
エストラゴン、座る場所を探し、土の盛り上がったところに座る。
エストラゴン 眠れたらいいのに。
ウラジミール 昨夜は眠ったぞ。
エストラゴン やってみる。
エストラゴン、顔を両膝に埋めて、また胎児の姿勢をとる。
ウラジミール ちょっと待った。(エストラゴンの元に行き、隣に座って、大声で歌い始める)ねんねんねんねん
ねんねんよ~
エストラゴン (怒って顔を上げて)うるさいよ!
ウラジミール (優しく)ねんねんねんねんねんねんよ~ ねんねんねんねんねんねんよ~
(エストラゴン、眠る。ウラジミール、そっと立ち上がってコートを脱ぎ、エストラゴンの肩にかけてやる。
それから腕を振りながら行ったり来たり歩き始める。体を温めるためだ。エストラゴン、びくっとして目を覚まし、飛び上がり、
狂ったように辺りを見回す。ウラジミール、エストラゴンの元に駆け寄り、体に腕を回して)
よしよし……よしよし……ジジがついてる……もう怖くないよ……。
エストラゴン ああ!
ウラジミール よしよし……よしよし……もう大丈夫だ。
エストラゴン 俺、落ちて---
ウラジミール もう大丈夫だ。終わったんだよ。
エストラゴン てっぺんからさ---
ウラジミール やめろよ! さ、ちょっと歩こう。
ウラジミール、エストラゴンの腕をとり、行ったり来たり歩かせる。エストラゴン、やがて歩くのを嫌がり始める。
エストラゴン もういいよ。疲れちゃった。
ウラジミール 何もしないで、突っ立ってる方がいいの?
エストラゴン うん。
ウラジミール 好きにしなよ。
ウラジミール、エストラゴンの腕を離し、コートを拾って着る。
エストラゴン 行こうよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう! (ウラジミール、行ったり来たり歩く)じっとしてられないの?
ウラジミール 寒いんだよ。
エストラゴン 来るの、早すぎたね。
ウラジミール いつも日暮れ時だよ。
エストラゴン ちっとも日が暮れそうにないよ。
ウラジミール いきなり暮れるんだよ。昨日もそうだった。
エストラゴン そして夜が来る。
ウラジミール そうすれば立ち去れる。
エストラゴン そしてまた日が昇る。(間。絶望して)どうすんだよ、どうすんだよ!
ウラジミール (足を止めて、激しく)ぐずぐず言うなよ! お前の泣き言にはうんざりだ!
エストラゴン 俺、行くわ。
ウラジミール (ラッキーの帽子が目に入って)おっと!
エストラゴン さらば。
ウラジミール ラッキーの帽子だよ。(帽子に近寄って)もう一時間もいたのに全然気がつかなかったな。(大喜びで)やった!
エストラゴン 俺にはもう二度と会えないんだからな。
ウラジミール やっぱりこの場所でよかったんだ。もう大丈夫。(帽子を拾い上げ、じっと見つめ、形を整えて)もとは立派な帽子だったんだろうな。
(帽子を脱いでそれをかぶり、自分のはエストラゴンに渡して)ほら。
エストラゴン え?
ウラジミール 持ってろよ。
エストラゴン、自分の帽子を脱いでウラジミールの帽子をかぶり、自分のをウラジミールに渡す。ウラジミール、エストラゴンの帽子を受け取る。
エストラゴン、ウラジミールの帽子を頭に合わせる。ウラジミール、ラッキーの帽子を脱いでエストラゴンの帽子をかぶり、ラッキーの帽子をエストラゴンに渡す。
エストラゴン、ラッキーの帽子を受け取る。ウラジミール、エストラゴンの帽子を頭に合わせる。
エストラゴン、ウラジミールの帽子を脱いでラッキーの帽子をかぶり、ウラジミールの帽子をウラジミールに渡す。ウラジミール、自分の帽子を受け取る。
エストラゴン、ラッキーの帽子を頭に合わせる。ウラジミール、エストラゴンの帽子を脱いで自分の帽子をかぶり、エストラゴンの帽子をエストラゴンに渡す。
エストラゴン、自分の帽子を受け取る。ウラジミール、自分の帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ラッキーの帽子を脱いで自分の帽子をかぶり、
ラッキーの帽子をウラジミールに渡す。ウラジミール、ラッキーの帽子を受け取る。エストラゴン、自分の帽子を頭に合わせる。
ウラジミール、自分の帽子を脱いでラッキーの帽子をかぶり、自分の帽子をエストラゴンに渡す。エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取る。
ウラジミール、ラッキーの帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ウラジミールの帽子をウラジミールに返す。
ウラジミール、自分の帽子を受け取り、エストラゴンに返す。エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取り、ウラジミールに返す。
ウラジミール、自分の帽子を受け取り、投げ捨てる。
エストラゴン 分かるわけないだろ。
ウラジミール じゃなくて、似合うかって聞いてんだよ。
ウラジミール、くねくねとしなを作って頭を左右に振り、マネキンのように気取って見せる。
エストラゴン 最悪。
ウラジミール まあな、けどいつものよりましだろ。
エストラゴン どっちもどっち。
ウラジミール じゃあ、こっちにする。あの帽子には、飽き飽きしてたんだ。(間)なんていうか。(間)あの帽子のほうが、俺に飽き飽きしてたっていうか。
ウラジミール、ラッキーの帽子を脱いで、中を見回し、振って、山を叩き、またかぶる。
エストラゴン 俺、行くわ。
沈黙。
ウラジミール 遊ばないの?
エストラゴン 何して?
ウラジミール ポゾーとラッキーごっこ。
エストラゴン 聞いたことないよ。
ウラジミール 俺、ラッキー。お前、ポゾーね。(ラッキーの真似をして、荷物の重みで体を折り曲げる格好。エストラゴン、呆気にとられてそれを見る)
どうぞ。
エストラゴン どうすればいいの?
ウラジミール 酷いこと言って!
エストラゴン (考えて)スケベ!
ウラジミール もっと!
エストラゴン 淋病持ち! このスピロヘータ野郎!
ウラジミール、体を二つに折って、前後に揺さぶる。
エストラゴン へ?
ウラジミール 言えよ、考えろ、豚! って。
エストラゴン 考えろ、豚!
沈黙。
ウラジミール 無理。
エストラゴン もういいよ。
ウラジミール 踊れって言えよ。
エストラゴン 俺、行くわ。
ウラジミール 踊れ、豚野郎! (身をよじる。エストラゴン、上手から急いで退場)無理。(顔を上げ、エストラゴンがいないことに気付いて)ゴゴ!
(舞台を激しく動き回る。エストラゴン、上手から登場。息を切らしている。ウラジミールのもとに走って来て、
ウラジミールの腕の中に崩れ落ちる)やっと帰ってきたね!
エストラゴン 俺、呪われてるよ!
ウラジミール お前、どこ行ってたんだよ! もう帰って来ないのかと思った。
エストラゴン 奴らが来る!
ウラジミール 誰だよ?
エストラゴン 分かんない。
ウラジミール 何人だ?
エストラゴン 分かんない。
(エストラゴンを舞台袖に引っ張っていこうとする。エストラゴン、抵抗し、振りほどき、下手から退場)ゴゴ! 戻って来い!
(上手端まで走っていき、地平線のほうを見渡す。エストラゴン、下手から登場。ウラジミールのもとに走って来て、
ウラジミールの腕の中に崩れ落ちる)またまた帰ってきたね!
エストラゴン 俺、地獄に堕ちる!
ウラジミール お前、どこへ行ってたんだよ?
エストラゴン こっちも来るよ!
ウラジミール 我々は包囲されている! (エストラゴン、舞台奥に逃げ込む)あほか! そっちに出口ないぞ!
(エストラゴンの腕をつかんで舞台前面に引きずり出す。観客席を身振りで示して)こっちだ! 誰もいないぞ! さあ行け! 早く!
(エストラゴンを観客席の方に押しやる。エストラゴン、恐怖に駆られて後ずさりする)いやなのか? (観客席を一瞥して)
気持ちは分かる。さてと。(考えて)残る選択肢は姿を消すことだな。
エストラゴン どこに!
ウラジミール 木の後ろだ。(エストラゴン、ためらう)早く! 木の後ろだよ! (エストラゴン、木の後ろに行ってしゃがむが、
体が隠れてないことに気付き、木の後ろから出て来る)全くこの木ときたら、何の役にも立たないよ。
エストラゴン (少し落ち着いて)焦ったぁ。ごめんね。もう大丈夫。さてどうすればいい?
ウラジミール 何もないよ。
エストラゴン あっち行って立ちなよ。(ウラジミールを下手端に引っ張って行き、舞台に背を向けて立たせて)いい、じっとして見張っててよ。
(ウラジミール、目の上に手をかざして地平線を見渡す。エストラゴン、上手端に走って行って、同じ姿勢。二人とも振り返って互いを見て)
背中合わせだ。昔懐かしあの頃みたいだ! (二人は束の間、互いを見続け、やがて見張りに戻る)何か来てる?
ウラジミール (振り向いて)え?
エストラゴン (もっと大きな声で)何か来るの見える?
ウラジミール いんや。
二人、見張りを続ける。沈黙。
ウラジミール お前、幻でも見たんだな。
エストラゴン (振り向いて)え?
ウラジミール (もっと大きな声で)お前、幻でも見たんだろ!
エストラゴン 叫ばなくてもいいだろ!
二人、見張りを続ける。沈黙。
ウラジミール
(同時に振り向いて)あのさ---
エストラゴン
ウラジミール おっと失礼!
エストラゴン どうぞ続けて。
ウラジミール いえいえ、お先にどうぞ。
エストラゴン いえいえ、そちらから。
ウラジミール 割り込んだのはこっちですから。
エストラゴン いえいえ、こちらですから。
二人、怒って互いを睨みつける。
エストラゴン 几帳面な豚野郎!
ウラジミール 最後まで言えばいいだろ!
エストラゴン お前こそ!
沈黙。互いに近付き、立ち止まる。
ウラジミール まぬけ!
エストラゴン それだよ、お互いに罵倒し合おう。
二人、いったん離れてからまた向かい合って。
ウラジミール まぬけ!
エストラゴン 人間の屑!
ウラジミール 発育不全!
エストラゴン 寄生虫!
ウラジミール ドブネズミ!
エストラゴン 糞坊主!
ウラジミール 白痴!
エストラゴン (決定的に)劇評家!
ウラジミール ぐあ!
ウラジミール、へなへなとなって、打ちひしがれ、顔を背ける。
ウラジミール ゴゴ!
エストラゴン ジジ!
ウラジミール さあ、君の手を!
エストラゴン 僕の手を!
ウラジミール さあ、僕の腕の中においで!
エストラゴン 君の腕?
ウラジミール 僕の胸に!
エストラゴン よおし!
二人、抱き合う。二人、離れる。沈黙。
ウラジミール あっと言う間に時が経つなぁ、ふざけてるとさ!
沈黙。
エストラゴン 今度は何する?
ウラジミール 待ちながらなぁ。
エストラゴン 待ちながらねぇ。
沈黙。
ウラジミール 体操でもするか。
エストラゴン 体動かすか。
ウラジミール 跳躍運動して。
エストラゴン 脱力する。
ウラジミール 屈伸運動して。
エストラゴン 脱力する。
ウラジミール ウォームアップだ。
エストラゴン クールダウンだ。
ウラジミール さあやってみよう。
エストラゴン (やめて)もういいよ。疲れた。
ウラジミール (やめて)調子が出ないな。ちょっと深呼吸でもしてみるか?
エストラゴン 息するのもうんざりだよ。
ウラジミール それもそうだ。(間)じゃ、木になってみようよ、バランス感覚だ。
エストラゴン 木って?
ウラジミール、木になる。片足立ちでよろめく。
ウラジミール (やめて)お前の番。
エストラゴン、木になる。よろめく。
エストラゴン 神様は俺のことを見てると思う?
ウラジミール 目を閉じなきゃ駄目だよ。
エストラゴン、目を閉じる。もっとよろめく。
エストラゴン (やめて、両手の拳を振り回しながら、声を限りに)神様、どうか私にお慈悲を!
ウラジミール (腹を立てて)俺にもだろ?
エストラゴン 私に! 私にです! お慈悲を! どうか私に!
ポゾーとラッキー、登場。ポゾーは目が見えない。ラッキーは前と同様に荷物を持っている。
前と同様にロープで繋がれているもののロープはずっと短くなっている。
そのおかげで、ポゾーはラッキーの後についていきやすくなっている。ラッキーは前と違う帽子をかぶっている。
ラッキー、ウラジミールとエストラゴンを見て立ち止まる。ポゾー、そのまま進み、ラッキーにぶつかる。
ウラジミール ゴゴ!
ポゾー (ラッキーにつかまる。ラッキー、よろめく)どうした? 誰だ?
ラッキー、なにもかも投げ出し、ポゾーを巻き添えにして転ぶ。二人は散らばった荷物の間になすすべもなく倒れる。
ウラジミール やっと来た! (荷物の山の方に向かう)ついに援軍到来だ!
ポゾー 助けてー!
エストラゴン ゴドーなの?
ウラジミール 俺達、弱気になってたけど、これで今夜も切り抜けられるぞ。
ポゾー 助けてー!
エストラゴン 聞こえないの?
ウラジミール 俺達、もう二人っきりで夜が来るのを待ったり、ゴドーを待ったり、あと……えーっと、とにかく待ったりしなくてもいいんだよ。
夕方ずっと俺達、誰の助けもなく、頑張ってきたよな。けどそれも終わりだ。明日が来たも同然だよ。
ポゾー 助けてー!
ウラジミール また時が流れ始めたぞ。日は沈み、月は昇り、俺達は……ここをあとにするんだ。
ポゾー お慈悲を!
ウラジミール ポゾーだ、ポゾーだよ!
エストラゴン この人だと思ったよ。
ウラジミール 誰って?
エストラゴン ゴドーだろ。
ウラジミール ゴドーじゃないよ。
エストラゴン ゴドーじゃないの?
ウラジミール ゴドーじゃないよ。
エストラゴン じゃあ誰?
ウラジミール ポゾーだよ。
ポゾー ここだ! ここ! 起こしてくれよ!
ウラジミール 起き上がれないんだな。
エストラゴン 行こうよ。
ウラジミール 駄目だよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう!
ウラジミール こいつまた、骨をくれるかもしれないぞ。
ウラジミール 鶏の骨だよ。覚えてないのか?
エストラゴン こいつだっけ?
ウラジミール そうだよ。
エストラゴン 聞いてよ。
ウラジミール 先に手伝ってやったほうがいいよ、きっと。
エストラゴン なにを?
ウラジミール 起き上がるの。
エストラゴン こいつ、起き上がれないの?
ウラジミール 起き上がりたいのに。
エストラゴン じゃあ勝手に起きればいいじゃん。
ウラジミール できないんだよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール さあね。
ポゾー、身もだえし、唸り、両手の拳で地面を叩く。
エストラゴン 先に骨をくれるか聞いたほうがいいよ。断られたら放っておけばいい。
ウラジミール つまりこいつの命運は俺達が握ってるってことか。
エストラゴン そういうこと。
ウラジミール てことは、俺達が善行を施すかどうかは条件次第ってことだな。
エストラゴン へ?
ウラジミール 頭いいな。けど、一つ心配なことが。
ポゾー 助けてー!
エストラゴン なんだよ?
エストラゴン ラッキーって?
ウラジミール 昨日お前を襲った奴だよ。
エストラゴン だって十人いたんだよ。
ウラジミール そうじゃなくて、その前。蹴った奴。
エストラゴン そいつがいるの?
ウラジミール まさにご本人だよ。(ラッキーを身振りで示して)今のところは大人しいけど、いつ暴れ狂うか分からない。
ポゾー 助けてー!
エストラゴン ボコボコにしてやったら? 二人で。
ウラジミール 寝込みを襲うってことか?
エストラゴン うん。
ウラジミール いい考えだ。でもできるかな? 本当に寝てるのか、あいつ? (間)いや、一番いいのは、ポゾーを利用することだよ。
あいつが助けを呼んだら---
ポゾー 助けてー!
ウラジミール 助けるんだ。
エストラゴン こいつを? 俺達が?
ウラジミール 確実にお礼が返ってくるという予測のもとにだ。
エストラゴン でも、あいつがもし---
本当はさ、別に俺達じゃなくたっていいんだ。他の奴等だってよかったんだ。そいつらの方がいいかどうかは別として。
俺達の耳の中でずっとこだましてるあの救いを求める叫び、あれは人類すべてに対して発信されたものだ。
だがしかしだよ、今この瞬間、この場所で、人類とは俺達のことなんだ。好むと好まざるにかかわらず。それを利用しない手はないだろ。
手遅れにならないうちにな! 一度は糞みたいな人類を立派に代表してみたっていいじゃないか。
過酷な運命が俺達にやれって言ってるんだから! どうよ? (エストラゴン、何も言わない)
まあ確かに、腕組みをして賛成と反対の重さを量ってるのは、俺達がまさに人類である証拠だよな。
トラなら何の迷いもなく同類の救助に駆けつけるもんな。或いは茂みの奥深くへとそっと隠れるかもしれない。
けどそんな事はどうだっていい。俺達がどうするのか、それこそが問題なんだよ。そしてありがたいことに、俺達はたまたま答えを知ってるってわけだ。
そうだよ、この大混乱の中で、一つだけ明らかなことがある。俺達は、ゴドーを待ってるんだ---
ポゾー 助けてー!
ウラジミール 或いは、夜の帳が降りるのを。(間)俺達は約束を守ってきたし、それこそが大事なんだ。俺達は聖人でも何でもない。
それでも約束は守る。俺達ぐらい誇れる人間が一体どれだけいるだろう。
エストラゴン くさるほど。
ウラジミール あ、そう?
エストラゴン 分かんない。
ウラジミール そうかもね。
ポゾー 助けてー!
ウラジミール 分かってるのは、こんな状況じゃ、時間が立つのが遅いってことだ。俺達はな、あの手この手で何とかやり過ごしてるんだよ---
なんていうか---始めは意味ありげに見えるけど、そのうちただの習慣になっちまうようなことでさ。
そうやって理性が崩壊するのを食い止めてるともいえる。まあそれはそうだ。けど、理性なんてとっくの昔から、
深い深い海の底みたいな終わりなき夜を彷徨ってるんじゃないのか? 俺、時々そんな風に思うんだ。俺の説、分かってんの?
エストラゴン (ここだけ格言的に)我々は皆狂人として生を受け、そのまま生きる者もいる。
ポゾー 助けてー! お金払うから。
エストラゴン いくら?
ポゾー 百。
エストラゴン 安っ。
ウラジミール いやそこまでは。
エストラゴン 百でいいの?
ウラジミール いやそうじゃなくて。この世に生を受けた時から頭がおかしいなんて言い過ぎだよ。まあそこは問題じゃないけどさ。
ポゾー 二百にする!
それは確かだ。だよな? そこへ気晴らしがやって来る。さて、どうするよ? 俺達、せっかくの気晴らしを無駄にしてるんだ。
さあ、お仕事だ! (荷物の山に近付き、平然と立ち止まって)あっと言う間に何もかも消えちまったら、
また二人っきりで裸舞台の真ん中に取り残されるんだ。(思いを馳せる)
ポゾー 二百だってば!
ウラジミール 今行くよ。
ウラジミール、ポゾーを立たせようとするが、失敗。もう一度やってみるが、よろめいて転倒する。起き上がろうとするが、できない。
エストラゴン どうしたの?
ウラジミール 助けてー!
エストラゴン 俺、行くわ。
ウラジミール 見捨てるなよ! 殺されるーっ!
ポゾー ここはどこだ?
ウラジミール ゴゴ!
ポゾー 助けてー!
エストラゴン 行くってば。
ウラジミール まず俺を助けろよ。で、一緒に行けばいいよ。
エストラゴン 約束する?
ウラジミール 誓うよ。
エストラゴン もう二度と戻ってこない?
ウラジミール 来ないよ!
エストラゴン ピレネー山脈に行こう。
ウラジミール お前の行きたい所ならどこだって。
エストラゴン 俺、ピレネー山脈を放浪したいっていつも思ってたんだ。
ウラジミール 放浪してくれよ。
エストラゴン (後ずさりして)おならしたの誰?
ウラジミール ポゾーだよ。
ポゾー ここだ! ここだよ! お慈悲を!
エストラゴン くさっ!
エストラゴン 俺、行くわ。(間。もっと大声で)行くからね!
ウラジミール まあ、結局は自力で起き上がればいいってことだよ。(やってみるが、失敗する)時が来ればね。
エストラゴン どうしたの?
ウラジミール 地獄に堕ちろ。
エストラゴン そこにいるつもり?
ウラジミール 当分は。
エストラゴン ほら、起きなよ。風邪ひくよ。
ウラジミール 俺のことはいいんだ。
エストラゴン ねえ、ジジ、意地はらないでよ。
エストラゴン、ウラジミールに手を差し出す。ウラジミール、急いで掴もうとする。
ウラジミール 引っ張って!
エストラゴン、引っ張る。よろめいて、転倒する。長い沈黙。
ポゾー 助けに来てー!
ウラジミール 来てますよー。
ポゾー お前、誰だ?
ウラジミール 人類です。
沈黙。
エストラゴン 優しき母なる大地よ!
ウラジミール お前、起き上がれる?
エストラゴン さあ。
ウラジミール やってごらん。
エストラゴン あとにしてよ、あとに。
沈黙。
ウラジミール (激しく)いい加減にしてくれよ、この疫病神! こいつ、自分のことしか考えてないな!
エストラゴン ちょっとうとうとしてみようか。
ウラジミール お前、聞いたか? こいつ、どうなったのか知りたいんだってさ!
エストラゴン 放っとけばいいよ。眠ろう。
沈黙。
ポゾー お慈悲を! お慈悲を!
エストラゴン (びくっとして)何?
ウラジミール 眠ってたのか?
エストラゴン そうみたい。
ウラジミール またポゾーの野郎だよ。
エストラゴン こいつ、黙らせてよ。股間を蹴っちゃいなよ。
ウラジミール (ポゾーを殴りつけて)いい加減にしろよ、この毛じらみ野郎! (ポゾー、痛みで泣き叫びながらウラジミールから逃れ、這って逃げる。
ポゾー、止まり、助けを呼びながら、見えない目で宙を見る。ウラジミール、肘をついてポゾーが逃げる様子を見て)逃げたぞ!
(ポゾー、崩れ落ちる)ダウンした!
エストラゴン これからどうする?
ウラジミール 奴のところまで這っていけるかも。
エストラゴン 置いていかないでよ!
ウラジミール 呼んでみてもいいけど。
エストラゴン それがいいよ。
ウラジミール ポゾー! (沈黙)ポゾー! (沈黙)無視かよ。
エストラゴン 声を合わせて。
ウラジミール
(同時に)ポゾー! ポゾー!
エストラゴン
エストラゴン あいつ、本当にポゾーっていうの?
ウラジミール (不安になって)ポゾーさん! 戻って来て下さいよ! 痛いことしませんから!
エストラゴン 別の名前で呼んでみたら?
ウラジミール あいつ、くたばっちまったらどうしよう。
エストラゴン 面白いじゃん。
ウラジミール 何がだよ。
エストラゴン 別の名前を試そうよ。色々さ。暇つぶしになるよ。そのうち当たるって。
ウラジミール だからぁ、やつの名前はポゾーだよ。
エストラゴン すぐ分かるよ。(考えて)アベル! アベル!
ポゾー 助けてー!
エストラゴン 一回で当たった!
ウラジミール そろそろ飽きてきたな、このモチーフ。
エストラゴン 片割れはきっとカインだ! カイン! カイン!
ポゾー 助けてー!
エストラゴン あいつ、一人で全人類かよ。(沈黙)見てよ、あのちっぽけな雲。
ウラジミール (目を上げて)どこ?
エストラゴン ほら。てっぺんのほう。
ウラジミール で? あの雲のどこがいいんだよ?
沈黙。
ウラジミール ちょうどそう言おうと思ってたんだ。
エストラゴン けど、なんかあるかなぁ?
ウラジミール う~ん。
沈黙。
エストラゴン とりあえず起き上がってみる?
ウラジミール やってみて損はない。
二人、立ち上がる。
エストラゴン 楽勝だな。
ウラジミール やる気の問題だよ。
エストラゴン で、どうするの?
ポゾー 助けてー!
エストラゴン 行こうよ。
ウラジミール 駄目だ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう! (絶望的に)どうすんだよ、どうすんだよ!
ポゾー 助けてー!
ウラジミール 助けてみる?
エストラゴン あいつ、どうしたいの?
ウラジミール 起き上がりたいんだよ。
エストラゴン じゃあなんで起きないの?
ウラジミール 俺達に手伝ってほしいんだよ。
エストラゴン じゃあ手伝ってやろうよ。なに待ってんだよ?
二人、ポゾーを立たせて、手を放す。ポゾー、倒れる。
ポゾー お前、誰だ?
ウラジミール 俺のこと、分からないの?
ポゾー 目が見えないんでね。
沈黙。
エストラゴン きっと未来は見えるんだ。
ウラジミール いつから?
ポゾー 視力は抜群だったんだ。君らは友達?
エストラゴン (けたたましく笑って)俺達が友達かどうか知りたいんだってさ。
ウラジミール 違うよ、こいつの友達かどうか聞いてるんだよ。
エストラゴン で?
ウラジミール 友達だって自信を持って言えるよ。助けてやったんだから。
エストラゴン なるほど。友達じゃなかったらはたして助けたかどうか。
ウラジミール 助けたな、多分。
エストラゴン それもそうだ。
ウラジミール そこ、今は深入りしないでおこう。
ポゾー 君ら、追剥か?
エストラゴン 追剥! 俺達が追剥に見えるってか?
ウラジミール 馬鹿、目が見えないんだから!
エストラゴン あ、そうだった! (間)本人が言うにはね。
ポゾー 置いてかないでくれ!
ウラジミール そんなことするか。
エストラゴン 今のところは。
ポゾー 今何時?
ウラジミール (空を見て)七時かな……八時かなぁ……。
エストラゴン そりゃ、一年のうちのいつ頃かによるな。
ポゾー 今は夕方なのか?
沈黙。ウラジミールとエストラゴン、夕陽をじっと見つめる。
ウラジミール まさか。
エストラゴン きっと夜明けだ。
ウラジミール 馬鹿だな。西だよ、あっちは。
エストラゴン なんで分かる?
ポゾー (苦悶して)夕方なのか?
ウラジミール どっちにしても日は動いてないよ。
エストラゴン 昇ってるって言っただろ。
ポゾー なんで答えてくれない?
エストラゴン チャンスをくれよ。
ウラジミール (安心させるように)夕方だよ、夕方。夜の帳が下りてきた。ここにいる俺の友達は、そうじゃないって思わせようとした。
正直、一瞬心が揺れたよ。けど、俺だってこの長い一日を無駄に生きてきたわけじゃないんだ。
保証するよ、今日のレパートリーの終焉間近だって。(間)具合はどうだ?
エストラゴン 何時までこいつをぶら下げてなきゃならないの? (二人、ポゾーを離そうとしてみるが、ポゾーが倒れそうになるので、また掴まえる)
俺達、石像じゃないよ!
ウラジミール あんた、目はよかったってことだよな。俺の聞き違いじゃなければ。
ポゾー 視力は抜群だったよ! そりゃもう、よく見えたもんだ!
沈黙。
エストラゴン (苛々して)話、続けて! 膨らませてよ!
ウラジミール ほっといてやれよ。幸福だった頃に思いを馳せてるのが分からないのか? (間)
メモリア・プラエテリトールム・ボノールム{ラテン語。「過去は何時でも美しい」の意}---辛いだろうな。
エストラゴン 分からないよ、俺達には。
ウラジミール で、突然そうなったわけ?
ポゾー 本当に素晴らしく目がよかったんだ!
ウラジミール 突然そうなったのか聞いてるんだよ。
ポゾー ある晴れた日、目覚めたら見えなくなっていた。運命の女神と同じくらい盲目になっていたんだ。(間)時々思うよ。
まだ眠ってるんじゃないかってね。
ウラジミール それはいつのこと?
ポゾー さあね。
ポゾー (激しく)私に聞くな! 盲人には時間の観念がないんだ。時間に関する事柄も、盲人たちからは隠されているんだよ。
ウラジミール そりゃびっくりだ! 絶対逆だと思ってたよ。
エストラゴン 俺、行くわ。
ポゾー ここはどこだ?
ウラジミール さあね。
ポゾー ひょっとして舞台とか呼ばれる場所じゃないよね?
ウラジミール 聞いたことないな。
ポゾー どんなところ?
ウラジミール (見回して)何とも言えないな。何にも似てないし。何もない。木が一本だけ。
ポゾー じゃあ舞台じゃないな。
エストラゴン (盛り下がって)なんか気晴らしはないの!
ポゾー 私の召使はどこだ?
ウラジミール どっかその辺にいるよ。
ポゾー なんで呼んでも返事がないんだろう?
エストラゴン さあね。眠ってるみたいだよ。死んでるのかもね。
ポゾー 何があったんだ、厳密に言うと?
エストラゴン 厳密に、だってさ!
ウラジミール あんたたち二人とも滑って転んだんだよ。(間)転倒したんだ。
ポゾー あいつ怪我してないか、見て来てもらえないかな?
ウラジミール あんたから手が離せないだろ。
ポゾー 二人で行かなくても。
ウラジミール (エストラゴンに)お前行けよ。
エストラゴン あんなことされたのに? 絶対やだ!
ポゾー そうだよそうだよ、君の友達に行ってもらいたいな、ものすごく臭いんだ。(沈黙)この人は何を待ってるのかな?
ウラジミール お前、何を待ってるんだっけ?
エストラゴン ゴドーを待ってる。
沈黙。
ポゾー まずロープを引いてくれ。好きなだけ強く。首を絞めないようにね。奴は普通ならそれに反応するはずだ。
もし反応がなければ、ブーツで一発お見舞いしてやればいい。顔と急所を思いきりね。
ウラジミール (エストラゴンに)な、怖がることないよ。ていうか、復讐のチャンスだよ。
エストラゴン もし奴が防御したら?
ポゾー いやいや、奴は防御したことなんかないよ。
ウラジミール 俺が飛んでって助けてやるよ。
エストラゴン ちゃんと見ててよ。
エストラゴン、ラッキーの所に行く。
ウラジミール まず生きてるか確認しろよ。死んでたら意味ないからな。
エストラゴン (ラッキーの上に身を屈めて)息してるよ。
ウラジミール じゃ、やっちまえ。
エストラゴン、突然怒りがこみ上げて、罵声を浴びせながらラッキーを蹴り始める。が、自分の足を痛めて、片足を引き摺り、唸り声を上げながら離れる。ラッキー、目を覚ます。
エストラゴン 何だよ、このけだものめ!
エストラゴン、土の盛り上がった所に座って、ブーツを脱ごうとする。が、すぐに思い直し、眠りにつこうと、両腕で膝を抱え、顔を腕に埋める。
ポゾー 何かまずいことでも?
ウラジミール 友達が怪我をした。
ポゾー ラッキーもか?
ウラジミール てことは奴はそうなんだな?
ポゾー え?
ウラジミール ラッキーなんだな?
ポゾー 何のことだ。
ウラジミール で、あんたはポゾーだな?
ポゾー もちろんポゾーだ。
ウラジミール 昨日と同じ?
ポゾー 昨日だって?
ポゾー 昨日誰かに会ったなんて覚えてないね。だが、明日になったら、今日誰かに会ったなんて覚えちゃいないさ。だから私を当てにしないことだ。
ウラジミール でも---
ポゾー もう沢山だ。立てよ、豚!
ウラジミール あんたはそいつを市場に売りに行こうとしてた。あんたは俺達に話をしてくれた。そいつは踊ったし考えてみせた。あんたは目が見えた。
ポゾー そう言いたいなら言えばいい。放してくれ! (ウラジミール、離れる)立て!
ラッキー、立ち上がって荷物をかき集める。
ウラジミール ここからどこへ?
ポゾー 行くぞ!
ラッキー、荷物を持ってポゾーの前に控える。
ポゾー 鞭だ! (ラッキー、荷物を全部置いて鞭を探し、見つけ、ポゾーの手に握らせ、また荷物を全部持つ)ロープだ!
(ラッキー、荷物を全部置いてロープの端をポゾーの手に握らせ、また荷物を全部持つ)
ウラジミール かばんの中には何が?
ポゾー 砂だよ。(ロープを引いて)進め!
ウラジミール まだ行かないで!
ポゾー 行くよ。
ウラジミール 助けが呼べない状況で倒れたらどうするんだよ。
ポゾー 起き上がれるようになるまで待てばいい。そして進むだけだ。進め!
ウラジミール 行っちまう前に、歌うように言ってくれよ。
ポゾー 誰に?
ウラジミール ラッキーだよ。
ポゾー 歌えと?
ポゾー しかしこいつは口がきけないんだ。
ウラジミール 口がきけない!
ポゾー 口がきけないんだ。唸ることも出来ない。
ウラジミール 口がきけないって! いつからだよ。
ポゾー (急にカッとして)くそったれな時間の話で俺をいじめるのは、いい加減にしてくれ! いつのことだ! とか、いつからだ! とか。
ある日、それじゃ足りないのか? いつもと同じ、ある日じゃ。ある日、あいつは口がきけなくなった。ある日、私は目が見えなくなった。
ある日、私達は耳も聞こえなくなるだろう。ある日、私達は生まれた。ある日、死ぬ。いつもと同じ一日、同じ瞬間。それじゃ足りないのか?
(少し気を静めて)女たちは墓穴に跨って子供を産む。日の光が束の間瞬いて、そしてまた夜が来る。(ロープを引いて)進め!
ポゾーとラッキー、退場。ウラジミール、舞台端まで追いかけ、見送る。転倒する音。
ウラジミールのマイムが、二人がまた倒れたことをダメ押しのように伝える。沈黙。ウラジミール、エストラゴンのもとに行き、しばしじっと見つめ、
やがて揺り起こす。
エストラゴン (暴れる仕草。支離滅裂な言葉。やがて)なんで寝かせておいてくれないの?
ウラジミール 淋しかったんだ。
エストラゴン 幸福な夢、見てたのに。
ウラジミール 暇つぶしにはなったな。
エストラゴン その夢はね---
ウラジミール (激しく)言うな! (沈黙)あいつ、本当に目が見えなかったのかな。
エストラゴン 目が見えなかったって、誰が?
ウラジミール ポゾーだよ。
エストラゴン 目が見えなかったの?
ウラジミール 本人がそう言ってた。
エストラゴン で、それがどうかした?
ウラジミール 俺達のこと、見てた気がした。
ウラジミール 誰?
エストラゴン ゴドー。
ウラジミール だから、誰が?
エストラゴン ポゾー。
ウラジミール 全然違うよ! (少し自信を無くして)違うだろ! (さらに自信を無くして)違うさ!
エストラゴン とりあえず、立ち上がるとするか。(痛そうに立ち上がって)痛っ! ジジ!
ウラジミール もう何をどう考えたらいいのか分からない。
エストラゴン 足! (座って、ブーツを両方脱ごうとして)手伝ってよ!
ウラジミール 俺は眠ってたのか? 他の奴等が苦しんでいる時に。今も眠ってるのか?
明日、目が覚めたら、いや、目が覚めたと思ったら、今日のことをなんて言うんだろう? 友達のエストラゴンと、この場所で、
日が暮れるまでゴドーを待ったって? ポゾーが荷物持ちと通りかかって、俺達に話しかけたって? そうかもな。
けど、そこにどれほどの真実がある? (エストラゴン、ブーツと格闘するがうまくいかず、またうたた寝をする。
ウラジミール、その姿をじっと見つめて)こいつは何も知らないままだ。また殴られた話をして、俺はニンジンをやるだろう。
(間)墓穴に跨って子供を産む。難産だ。穴の底じゃあ、墓掘りたちがのろのろと分娩用の鉗子を使って赤ん坊を取り出す。
俺達はゆっくり老いていく。空気中には俺達の叫び声が充満してる。(耳を澄まして)けど習慣とは、大した消音材だよ。
(またエストラゴンを見て)俺だって。誰かが俺を見て言ってるよ、こいつは眠ってる、何も知らない、眠らせといてやれって。
(間)もうこんな生活、やってられないよ! (間)俺、何言ってるんだ?
ウラジミール、興奮して行ったり来たりし、やがて舞台上手端で立ち止まり、考え込む。下手から少年、登場。立ち止まる。沈黙。
ウラジミール またかよ。(間)俺のこと、分からない?
少年 分かりません。
ウラジミール 君、昨日も来なかった?
少年 来てませんけど。
ウラジミール これが初めて?
少年 はい。
沈黙。
ウラジミール ゴドーさんから伝言、あるんだろ?
少年 はい。
ウラジミール 今夜は来られないって。
少年 はい。
ウラジミール でも明日は来る。
少年 はい。
ウラジミール 絶対に。
少年 はい。
沈黙。
ウラジミール 誰かに会った?
少年 会ってませんけど。
ウラジミール 二人の……(ためらって)……人間にも?
少年 誰にも。
沈黙。
ウラジミール ゴドーさんって、何してるの? (沈黙)聞いてるの?
少年 聞いてます。
ウラジミール で?
少年 特に何も。
沈黙。
ウラジミール 君の兄弟は元気なの?
少年 病気なんです。
ウラジミール 昨日来たのはその子かな。
少年 僕、分かりません。
沈黙。
ウラジミール (優しく)髭、はやしてる? ゴドーさんて。
少年 はやしてますけど。
ウラジミール 金色? それとも……(ためらって)……黒い髭?
少年 白かな。
沈黙。
ウラジミール 神様、私達にお慈悲を!
沈黙。
ウラジミール そうだなぁ……(ためらって)……俺と、あと……(ためらって)……俺に会ったって伝えてくれ。
(間。ウラジミール、前に出る。少年、後ずさりする。ウラジミール、立ち止まる。少年、立ち止まる。いきなり激昂して)
確かに俺に会ったよな! 明日またやって来て、俺に会ったことないなんて言わせないぞ!
(沈黙。ウラジミール、いきなり前に飛び出す。少年、身をかわして走って退場。沈黙。日が落ちて、月が上がる。
第一幕と同様に、ウラジミール、うなだれて立ち尽くす。エストラゴン、目を覚まし、両方のブーツを脱ぎ、片足ずつ持って立ち上がり、
舞台前面中央に置き、それからウラジミールのもとに行く)
エストラゴン どうかした?
ウラジミール 何でもないよ。
エストラゴン 俺、行くわ。
ウラジミール 俺も。
エストラゴン 長いこと、眠ってた?
ウラジミール さあね。
沈黙。
エストラゴン どこ行く?
ウラジミール 遠くは無理だよ。
エストラゴン えー、遠くまで行こうよ。
ウラジミール 駄目だよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール 明日戻って来なくちゃ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう! (沈黙)ゴドー、来なかったの?
ウラジミール うん。
ウラジミール うん。もう夜だしな。
エストラゴン すっぽかしたらどうかな? (間)すっぽかしちゃったら?
ウラジミール 酷い目に合わされるよ。(沈黙。木を見て)なにもかも死んでる。けど、木だけは生きてる。
エストラゴン (木を見て)あれ、何?
ウラジミール 木だよ。
エストラゴン うん。何の木かな?
ウラジミール さあね。柳かなぁ。
エストラゴン、ウラジミールを木の方に引っ張って行く。二人、木の前で立ち尽くす。沈黙。
エストラゴン ねえ、首吊ろうよ。
ウラジミール どうやって?
エストラゴン ロープかなんか、持ってないの?
ウラジミール ないよ。
エストラゴン じゃ、駄目だね。
沈黙。
ウラジミール 行こうか。
エストラゴン ちょっと待って、ベルトがあった。
ウラジミール 短いだろ。
エストラゴン 脚、引っ張ってくれよ。
ウラジミール 俺の脚は誰が引っ張るんだよ?
エストラゴン 確かに。
ウラジミール とにかく見せてみなよ。(エストラゴン、だぶだぶのズボンを締めている紐をゆるめる。ズボンが足首までずり落ちる。二人、紐を見て)
いざとなれば、いけそうだな。けど、千切れないかな?
エストラゴン 確かめてみようよ。ほら。
ウラジミール 話にならん。
沈黙。
エストラゴン 明日、戻って来るって言ったよね?
ウラジミール うん。
エストラゴン じゃあ丈夫なロープ、持ってこようよ。
ウラジミール そうだな。
沈黙。
エストラゴン ジジ。
ウラジミール うん。
エストラゴン もうこんな生活、やってられないよ。
ウラジミール お前、そう思ってるんだな。
エストラゴン ねえ、別れたらどうかな? 俺達、別れた方がいいんじゃないかな。
ウラジミール 明日、首を吊ろう。(間)ゴドーが来なかったらね。
エストラゴン もし来たら?
ウラジミール 俺達は救われる。
ウラジミール、(ラッキーの)帽子を脱ぎ、中を見回し、内側を手で探り、振って、山を叩き、またかぶる。
ウラジミール ズボンを上げなよ。
エストラゴン え?
ウラジミール ズボンを上げなって。
エストラゴン ズボンを脱げって?
ウラジミール ズボンを上げなってば。
エストラゴン (ズボンがずり落ちていることに気付いて)本当だ。(ズボンを上げる)
ウラジミール じゃあ、行こうか?
エストラゴン うん、行こう。
二人、動かない。
幕。